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2023.11.27

特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」

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特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」

会期 2023年10月11日(水)~12月3日(日)

東京国立博物館 平成館 特別展示室


日本美術の教科書」と呼ぶに相応しい作品の数々!
その通りの展覧会だと思いました。
トーハクの特別展ならではの充実度です。
国宝、重文が並びます。

4期にわたって展示替えがあります。
長尺の絵巻きなどは、順次展示替えが行われますので、一度にすべては観ることはできません。

この絵巻きは、あの展覧会で総覧できた、などと思いだしながら見てきました。

(画像はクリックで拡大表示になります)

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展覧会の構成は次の通りです。
序章 伝統と革新―やまと絵の変遷―
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国宝 日月四季山水図屏風 室町時代・15世紀 大阪・金剛寺蔵

第1章 やまと絵の成立―平安時代―
第1節 やまと絵の成立と王朝文芸
第2節 王朝貴族の美意識
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国宝 和漢朗詠集 巻下(太田切)部分 平安時代11世紀 東京・静嘉堂文庫美術館蔵
第3節 四大絵巻と院政期の絵巻
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国宝 源氏物語絵巻 夕霧(五島美術館蔵)部分 平安時代・12世紀 東京・五島美術館蔵


2章 やまと絵の新様―鎌倉時代―
第1節 写実と理想のかたち
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国宝 伝源頼朝像 鎌倉時代・13世紀 京都・神護寺像 (11/5までの展示)
第2節 王朝追慕の美術
第3節 鎌倉絵巻の多様な展開
 
3章 やまと絵の成熟―南北朝・室町時代―
第1節 あきらめのかたち
第2節 南北朝・室町時代の文芸と美術
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重文 百鬼夜行絵巻 伝土佐光信筆 室町時代・16世紀 京都・真珠庵像
第3節 和漢の混交と融合
 
4章 宮廷絵所の系譜

終章 やまと絵と四季―受け継がれる王朝の美―
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重文 浜松図屏風(左隻)室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵
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重文 浜松図屏風(右隻)室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵


同時期に本館で開催されている、特集展示も重量感のある展示内容です、こちらも是非。
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近世のやまと絵-王朝美の伝統と継承-
本館 7室・8室・特別2室 :2023年9月5日(火) ~ 12月3日(日)
仏画のなかのやまと絵山水
本館 3室 :2023年9月20日(水)~12月3日(日)

トーハクに一日いるつもりでお出かけがおすすめです。


―HPの解説ー
平安時代前期に成立したやまと絵は、以後さまざまな変化を遂げながら連綿と描き継がれてきました。優美、繊細といったイメージで語られることの多いやまと絵ですが、それぞれの時代の最先端のモードを貪欲に取り込み、人びとを驚かせ続けてきた、極めて開明的で野心的な主題でもありました。伝統の継承、そして革新。常に新たな創造を志向する美的な営みこそが、やまと絵の本質と言うことができるでしょう。 本展は千年を超す歳月のなか、王朝美の精華を受け継ぎながらも、常に革新的であり続けてきたやまと絵を、特に平安時代から室町時代の優品を精選し、ご紹介するものです。これら「日本美術の教科書」と呼ぶに相応しい豪華な作品の数々により、やまと絵の壮大、かつ華麗な歴史を総覧し、振り返ります。

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2023.11.23

古伊賀 破格の焼き物 

古伊賀 破格の焼き物
土・炎・人ーー巧まずして生まれた造形

会期 2023年10月21日(土)~12月3日(日)

五島美術館

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(画像はクリックで拡大表示になります)

”やきものの景色を楽しむ”
この展覧会にぴったりの言葉かもしれません。
日本独特の美意識が形になって表現されています。

展覧会の構成です。
第一部 花生
古伊賀の花生は数が限られ、その豊かな造形や堂々たる風格から数寄者の間で珍重されている。
約28cmの高さ、轆轤で成形、ヘラや手で押さえて歪みを加え、線彫りなどで装飾を加えています。

第二部 水差
伊賀焼の水差が茶会記に登場するのは17世紀初頭になってからだそうです。

第三部 香合・茶入れ・茶碗・鉢・壺
小ぶりで荒々しい姿の香合がとても良かったので、解説をメモしてきました。
”伊賀焼の香合の作品は伽藍石香合である。廃寺の礎石を沓脱石や庭の飛び石に用いた「伽藍石」に類似することからこの名が付いた”

古伊賀茶入について・・
茶を喫するためのうつわである茶碗は、客の手や口に直接ふれるものである。伊賀焼の茶碗が非常に少ないのは、ごつごつした肌合いがこのような用途に適していないためであろうか。(キャプションから)
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伊賀茶碗 銘 霜枯 桃山時代~江戸時代・17世紀 表千家不審庵

第四部 出土資料
 

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伊賀耳付花生 銘 聖 個人蔵
鴻池家に伝来したもので、箱の蓋表に「聖」の銘があります。
腕を腰にあてたような耳の位置、
ヘラで彫った線が顔のように、
あたかもラジオ体操せる人体のようであると・・

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重要文化財 伊賀耳付水指 銘 破袋 桃山~江戸時代・17世紀
安土桃山時代の茶人、古田織部が豊臣家の家臣大野主馬に宛てた書状に、
「今後、これほどのものはないと思う」と絶賛している。
この美術館で何度か拝見しましたが、一度見たら忘れられない作品です。

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伊賀耳付水差 銘 鬼の首 桃山~江戸時代・17世紀 石水博物館
「鬼の首」は川喜多久太夫政令(半泥子1878-1963)による命名。
手に入れたその喜びを「鬼の首をとって帰るや五月晴れ」と外箱蓋裏に書きつけている。

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伊賀擂座瓢形水差 銘 呂洞賓 根津美術館蔵
銘の”呂洞賓”は中国の八仙人の一人。


ーチラシからー
「古伊賀」は、桃山時代から江戸時代にかけて、今の三重県伊賀市で焼かれたやきものです。歪んだ形と、碧緑色の「ビードロ釉」、赤く焼きあがった「火色」、灰色のゴツゴツした器肌の「焦げ」が魅力の焼き締め陶器。古伊賀を代表する花生・水指の名品から、窯跡や消費地出土資料まで約90点を集めて展観します。

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2023.11.19

号外 町田ゼルビア J2優勝 J1昇格 パレード

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(画像はクリックで拡大表示になります)

”町田ゼルビア J2優勝 J1昇格 パレード ”は、
11月18日(土)に行われました。

”ゼルビア”は、
町田市の樹であるケヤキの英語名のZELKOVA(ゼルコヴァ)と、町田市の花であるSALVIA(サルビア)を合わせた造語だそうです。

撮った写真・動画をまとめてみました。

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2023.11.16

石川真生 ー私に何ができるかー

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石川真生 ─私に何ができるか─

会期 2023年10月13日(金)~ 12月24日(日)

東京オペラシティー アートギャラリー


 HPにあるハンドアウトで予習していくのもいいかと・・・
会場でも配布されます。

展覧会の構成は以下の通りです。
本展は、一部の作品を除いて撮影可でした。(撮影条件あり)
(画像はクリックで拡大表示になります)

写真作品それぞれに番号がふられています。

1-11 赤花 アカバナー 沖縄の女1975-1977

12-17 沖縄芝居ー仲田幸子-行物語 1977-1992
19-19沖縄芝居ー名優たち 1989-1992
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20-24沖縄エレジー 1983-1986
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25-31Life in Phlly 1986
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32-37沖縄と自衛隊 1991-1995、2003- 
38-44基地を取り巻く人々 1989-
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45-51ヘリ基地に揺れるシマ 1996-
52-55私の家族 2001-2005
56-61日の丸を視る目 1933-2011
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62森花-夢の世界2012-2023

63-166大琉球写真絵巻 2014-
63-84 パート 1 Part 1  2014
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85-107 パート 8 Part 8 2020-2021
108-130 パート 9 Part 9 2021-2022
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131-166  パート 10 Part 10 2022-2023
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撮影した写真をまとめてみました。

 

―HPの解説ー
沖縄を拠点としながら精力的な制作活動を続ける写真家・石川真生(いしかわ まお 1953-)の初期からの主要な作品を始め、とりわけ2014年から取り組んでいる「大琉球写真絵巻」の新作を中心に展示し、石川真生の実像に迫る個展を開催します。
石川の作品は、2004年の横浜美術館でのグループ展「ノンセクト・ラディカル 現代の写真III」において、沖縄以外の美術館で初めて紹介されました。以来、国内外での数多くの展覧会を経て、2021年には沖縄県立博物館・美術館にて回顧展「石川真生:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」が開催されました。本展は回顧展で示された成果も踏まえつつ、東京で初めての個展として開催します。
石川の写真は、国内外にパブリックコレクションがあり、その活動も広く知られているにもかかわらず、これまで発表された作品の流れを紹介する機会が多くありませんでした。本展では、初期の作品から最新作に至るまで、石川の作歴を概観することができると同時に、昨年沖縄の本土返還50周年を迎えるもなお、困難な状況に置かれている現代の沖縄という地政学的な最前線で撮影を続けている石川の活動をご覧いただく好機にもなります。
 

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2023.11.12

激動の時代 幕末明治の絵師たち

激動の時代 幕末明治の絵師たち

2023年10月11日(水)~12月3日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。

サントリー美術館


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(画像はクリックで拡大表示になります)

江戸から明治へと移り変わる激動の19世紀、
今なお新鮮な驚きや力強さが感じられる幕末明治期の作品群を特集する展覧会です。


展覧会の構成は次の通りです。

第1章 幕末の江戸画壇
江戸時代の狩野派、その門下からは従来の狩野派とは異なる独創的な作品を描く絵師も現れました。
伝統的な仏画の画題に洋風の陰影法を用いて極彩色に描いた狩野一信の「五百羅漢図」(大本山増上寺)また、江戸画壇に大きな影響力をもった谷文晁(1763~1840)と、その一門の作品などを紹介しています。
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五百羅漢図 第二十一・二十二幅 狩野一信 百幅のうち六幅 嘉永7 ~文久3年(1854 ~ 63) 大本山増上寺
全100幅からなり10年の歳月を費やして描かれた一信畢生の大作。

第2章 幕末の洋風画
幕末の絵師たちは「西洋絵画をいかに受け入れたのか」
葛飾北斎(1760~1849)に学んだ洋風画家が安田雷洲(?~1859)は、緻密な銅版画を得意とし、独特の洋風表現をもつ肉筆画を描きました。安田雷洲を中心に幕末の洋風画を紹介しています。
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捕鯨図 安田雷洲 一幅 江戸時代 19世紀 歸空庵

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江戸近国風景 安田雷洲 八枚 江戸時代 19世紀 神戸市立博物館

第3章 幕末浮世絵の世界
北斎、広重、国芳といった巨匠からは多くの弟子が輩出され、特に歌川派は幕末浮世絵界の一大勢力となりました。
歌川国芳や歌川派の絵師たちに注目した、幕末の浮世絵の世界の作品とともに、横浜浮世絵と呼ばれる開港した横浜の西洋風俗などを主題にした作品が紹介されています。
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讃岐院眷属をして為朝をすくふ図 歌川国芳 大判錦絵三枚続 嘉永4年(1851)頃 神奈川県立歴史博物館
曲亭馬琴作『 椿説弓張月 』に取材した図。讃岐院(崇徳天皇)が遣わした天狗を巨大なわに鮫が嵐に襲われた源為朝を救う場面を描く。(キャプションから)

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両賊深山妖術競之図 歌川芳艶 大判錦絵三枚続 万延元年(1860) 千葉市美術館

第4章 激動期の絵師
江戸の地に生き、東京で活躍した絵師たち、近代歴史画の祖・菊池容斎(1788~1878)、血みどろ絵で知られる月岡芳年(1839~92)、あらゆる画題に挑み画鬼と称された河鍋暁斎(1831~89)、光線画で一世を風靡した小林清親(1847~1915)といった絵師の作品を特集。
併せて、文明開化、近代日本の中心となった東京を描いた開化錦絵を紹介しています。
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魁題百撰相 井上五郎兵衛 月岡芳年 大判錦絵 江戸~明治時代 19世紀 町田市立国際版画美術館
慶応4年(1868)の上野戦争に取材した揃物の一図。江戸時代、徳川家や同時代の事件に関する浮世絵は禁止されていたため、上野戦争にまつわる人物を歴史上の人物に仮託して描く本図は、戦国時代に山口を本拠とした大内家の家臣、井上五郎兵衛になぞらえた4,彰義隊の兵士を表したもの。(キャプションから)

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鍾馗ニ鬼図 河鍋暁斎 双幅 明治4 ~ 22年(1871 ~ 89) 板橋区立美術館


―HPの解説ー
江戸から明治へと移り変わる激動の19世紀、日本絵画の伝統を受け継ぎながら新たな表現へ挑戦した絵師たちが活躍しました。本展では幕末明治期に個性的な作品を描いた絵師や変革を遂げた画派の作品に着目します。
幕末明治期の絵画は、江戸と明治(近世と近代)という時代のはざまに埋もれ、かつては等閑視されることもあった分野です。しかし、近年の美術史では、江戸から明治へのつながりを重視するようになり、現在、幕末明治期は多士済々の絵師たちが腕を奮った時代として注目度が高まっています。
本展では、幕末明治期の江戸・東京を中心に活動した異色の絵師たちを紹介し、その作品の魅力に迫ります。天保の改革や黒船来航、流行り病、安政の大地震、倒幕運動といった混沌とした世相を物語るように、劇的で力強い描写、迫真的な表現、そして怪奇的な画風などが生まれました。また、本格的に流入する西洋美術を受容した洋風画法や伝統に新たな創意を加えた作品も描かれています。このような幕末絵画の特徴は、明治時代初期頃まで見受けられました。
社会情勢が大きく変化する現代も「激動の時代」と呼べるかもしれません。本展は、今なお新鮮な驚きや力強さが感じられる幕末明治期の作品群を特集する貴重な機会となります。激動の時代に生きた絵師たちの創造性をぜひご覧ください。

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2023.11.08

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

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大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023年11月 1日(水) ~ 2023年12月25日(月)

国立新美術館

大巻伸嗣はこれらの作品で、何を表現、伝えようとしているのか・・・
出品リストの解説に詳しいです。
”HPで予習”または”会場にある作品リスト”を読んでからの鑑賞がお勧めです。
脳の回転が鈍い自分にはなかなか難しい世界でもありました。

(画像はクリックで拡大表示になります)
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Gravity and Grace, 2023
ステンレス、LEDライト 700×Φ400cm 展示空間50×8×8 詩:関口涼子


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《Gravity and Graceーmoment 2023 》
フォトグラム、RCペーパー


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《Liminal Air TimeーSpace 真空のゆら。》2023
布、ファン、ライト 展示空間:24×41×8m 布:36.8×15m


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《Linear Fluctuation》2019-2021
水彩、紙


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《Drawing in the Dark》2023などの展示風景
 

 展示構成
1《Gravity and Grace》

2《Gravity and Grace ̶ moment 2023》

3 舞台美術、コラボレーション
3-1 舞台「Rain」のためのドローイング
3-2《Memorial Rebirth TAIWAN Road》のためのドローイング
3-3《Liminal Air Fluctuation̶Existence》のためのドローイング

4《Liminal Air Space ̶ Time 真空のゆらぎ》

5《Linear Fluctuation》

6《Rustle of Existence》

7ドローイング
7-1《影向の家》のためのドローイング
7-2《影向の家》のためのドローイング
7-3《Drawing in the Dark》
7-4《Drawing in the Dark (栗林公園)》
7-5《影向の家》のためのドローイング
7-6《無題》
7-7《無題》
7-8《無題》
7-9《ファントム・マウンテン》

 

―HPの解説ー
大巻伸嗣(1971年岐阜県生、神奈川県在住)は、「存在するとはいかなることか」という問いを掲げ、身体の感覚を揺さぶるような大規模なインスタレーションを創り出してきた現代美術家です。大巻は、そうしたスケールの大きな創作を、日本はもとより、アジアやヨーロッパなど世界各国で発表し、高い評価を得てきました。また、地域を活性化するアート・プロジェクトから舞台芸術まで、多くの人々と協働して空間を変容させるさまざまな現場でも比類のない資質を発揮しています。

大巻の空間に包み込まれた私たちは、この世界における我が身の存在に、新たな視点を投げかけることになります。空間に痕跡を残すことで自らの身体を実感し、また、闇に包まれたり、強烈な光に照らされたりすることで、身体だけでなく、意識や感覚に、内省的に向き合うことを促されるのです。

大巻は、現代社会がどのような歴史を経て今に至り、現在どのような問題を抱えているかを深く考察し、それをもとにインスタレーションの着想を得てきました。また、光と闇を重要な要素とする大巻の空間は、太陽のリズムとともに在るこの世界を象徴するかのような始原的な感覚を湛えています。この始原性とも関わるのが、大巻が好んで用いてきた繊細かつ濃厚な装飾的な造形です。人間は、自然を抽象化した文様を身近なものとすることで、自然に寄り添って生きてきたからです。大巻のインスタレーションは、現代社会に対する優れた批評である一方、人間に普遍的にそなわる根源的な造形志向を色濃く反映しているのです。

本展覧会は、国立新美術館で最大の、天井高8m、2000m²にも及ぶ展示室をダイナミックに使って開催されます。この広大な空間でなければ展示できないインスタレーションは、観客の身体的な感覚と強く響き合い、細分化した世界に生きる私たちが失った総合的な生の感覚を喚起することでしょう。展示には、映像や音響、そして詩も用いられるほか、会場内でのパフォーマンスも予定されています。大巻が創り出す、現代の総合芸術をお楽しみいただければ幸いです。

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2023.11.04

生誕100年 遠藤周作展 ミライを灯すことば

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生誕100年 遠藤周作展 ミライを灯すことば

会期 2023年10月21日(土)~12月24日(日)

町田市文学館ことばらんど


(以下、展示会場に掲示されている文章を参照しています)

私が洗礼を受けたのは先にも書いたように、自分の意思からでははなかったが、
その後、私にとってあの林にいた犬の眼が人間を見るイエスの眼に重なることがある。小鳥だってそうだ。私は十姉妹を飼ったことがあるが、その一羽が病気になり、私の手の中で息を引きとったことがあった。うすい白い膜が彼の眼を覆いはじめる時ーーそれは十字架で息を引きとったイエスの眼を私に連想させた。犬や小鳥はたんに犬や小鳥ではない。それは我々を包み我々を遠くから見守っていてくれる小さな投影なのだーー「犬と小鳥と」

展示会場には、さまざまな関連資料とともに”遠藤周作のこのような文章”が所狭しと並んでいます。

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チラシの表紙の絵は©横尾忠則
(この画像はクリックで拡大表示になります)

 

展示構成は次の通りです。

・小説家遠藤周作
【影に対して】
2020年、長崎市遠藤周作文学館で発見された小説「影にたいして」。
用いられた原稿用紙から町田市在住時代に執筆されたことが推察される。
「むかし幾度、彼は父と母のことを小説に書こうとしただろう。だが原稿用紙に筆を走らせながら、勝呂は父に対しては意地悪な、母に対しては甘い自分の眼からどうしても抜けきれぬのを感じて書き続けるのをあきらめた」


・テーマ 差別
【白い人】
フランス留学体験が元となり、留学から帰国後2年をかけて「白い人」を執筆。
「白い人」は、ナチス占領下のフランス、リヨンでゲシュタポの一員となった「私」が自らの生い立ち、容姿へのコンプレックス、加虐への目覚めを綴った手記。
芥川賞を受賞し、作家としての第一歩となった。


・テーマ 良心
【海と毒薬】ーー良心とは何か
「仕方がないからねえ。
あの時だってどうにも仕方がなかったのだが、これからだって自信がない。これからもおなじような境遇におかれたら、僕はやはり、アレをやっていまうかもしれない・・アレをね」


・テーマ 弱さ
【沈黙】
「私は戦争中から自分が弱いせいで、何度も踏絵を踏んできました。戦争が終わった後も、ずいぶん踏絵を踏んでいます。自分の人生の踏絵をいくつも踏み続けながら生きてきた。これからも踏絵を前に出されたら、踏んでしまうでしょう。私は自分が強者だとはとても思えない。いつだって弱者ですーー「人生にも踏絵があるのだから」


・神・時代
【侍】ーー王に会いに行った男
藩主の命によりローマ法王への親書を携えて、「侍」は海を渡った。
「あまたの国を歩いた。大きな海も横切った。それなのに結局、自分が戻ってきたのは土地が瘦せ、貧しい村しかないここだという実感が今更のように胸にこみあげてくる。それでいいのだと侍は思う。ひろい世界、あまたの国、大きな海。だが人間はどこでも変わりなかった。どこにも争いがあり、駆引きや術策が働いていた。(略)侍は自分が見たのは、あまたの土地、あまたの国、あまた町ではなく、結局は人間のどうにもならぬ宿業だと思った。そしてその人間の宿業の上にあのやせこけた醜い男が手足を釘づけにされて首を垂れていた」


・理想のひとーーガストン・森田ミツ
日本にやってきたフランス人のガストン。彼はナポレオンの末裔と称する青年です。弱虫でドジだけど、お人好しな〝おバカさん〟は、行く先々で珍事を巻き起こしていきます。
「沈黙」や「侍」に先立って発表された二つの中間小説「オバカさん」と「わたしが捨てた女」
ガストン、森田ミツ両者は、遠藤が理想とする人間像、イエス像となって後の作品にも登場する。


・遠藤周作と町田
町田市玉川学園の自宅を「狐狸庵」と名付け、1964年から過ごした20余年の間にテレビのインタビュー番組やCMにも出演してユーモアに富む言動で幅広い人々に親しまれました。(HPから)


・テーマ 怪物
【スキャンダル】ーーほほえむ怪物
「長年のあいだ勝呂は小説を書きながら、どんな人間の陋劣のなかにも救いの徴を見ることが出来ると思ってきた。どんな罪にも再生のエネルギーがひそかに鼓動をうっていると信じてきた。だからこそ照れながらも自分をクリスチャンだと信じることができた。だが今日からはこの醜悪を自分のものと認めざるをえない。醜悪のなかにも救いの徴を見つけなけらばならない」


・テーマ 人生
【深い河】
人生の悲哀や問を抱えてインドツアーに参加した美津子ら4人と、カトリック司祭でありながらヒンズー教徒のために生きる大津の人生が、母なる河ガンジスを舞台に交錯し、それぞれが自分なりの答えを見出していく。  
[磯部]一人ぼっちになった今、磯部は生活と人生とが根本的に違うことがやっとわかってきた。そして自分には生活のために交わった他人は多かったが、人生の中で本当にふれあった人間はたった二人、母と妻しいなかったことを認めざるをえなかった。(略)河は彼の叫びを受けとめたまま黙々と流れていく、だがその銀色の沈黙にはある力があった。


―HPの解説ー
生誕100年を迎えた作家・遠藤周作(1923-1996)。新資料の発見が相次ぎ、再注目されている日本を代表する作家の一人です。「日本人にとってのキリスト教」を文学テーマの基底に据え、重厚な純文学作品から歴史小説、エンターテインメント小説、戯曲まで多彩なジャンルの作品を生み出しました。そして、これらの作品において差別、罪の意識、個と権力、人間の弱さなどの心の暗部を描き出し、本当の自分とは何か、悪に救いはあるのか、人生とは、神、信仰とは何かを問い続けました。教え諭すのではなく共に悩み苦しみ、弱者に寄り添うことで多様性への寛容を示した遠藤文学は多くの読者を慰め、勇気づけています。また、もう一つの名・狐狸庵先生としてエッセイを次々と発表。町田市玉川学園の自宅を「狐狸庵」と名付け、1964年から過ごした20余年の間にテレビのインタビュー番組やCMにも出演してユーモアに富む言動で幅広い人々に親しまれました。遠藤は後年、二つの名を持ったことにより「人一倍、生きた」という充足感を得られたと語っています。
本展では、次世代に語り継ぐ文学として遠藤文学の再評価を試みます。代表作『白い人』『海と毒薬』『沈黙』『侍』『スキャンダル』『深い河』を、現代作家 山崎ナオコーラ、夏川草介、朝井まかて、阿部暁子氏らが新たな視点で読み解き、いま読むべき文学としての意義を提示します。社会的不安が蔓延し、孤立や孤独、生きづらさ感じる現代。遠藤文学の新たな地平から、生きることの意味、未来を灯すメッセージを読みとっていただければ幸いです。

  

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