生誕110年 香月泰男展
生誕110年 香月泰男展は、練馬区美術館で開催されています。
会期 2022年2月6日(日)~3月27日(日)
前期 ~3月6日(日)
後期 3月8日(火)~3月27日(日)
以下「」内は香月泰男による解説文です。
展示会場で、作品にはグレー地の掲示が添えられています。
『生きることは、私には絵を描くことでしかない。それしか自分に納得できる生き方はない。今日は今日の絵を描き、絵の具を塗る』
展覧会構成は以下の通りです。
第Ⅰ章 1931~49
逆光のなかのファンタジー
1章では、香月の修行時代と初期を特徴づける叙情的絵画世界(作品)を紹介しています。
《釣り床》1941年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵
香月は坊主頭の少年は「栄えゆくもの」といった意味の言葉を語ったという。枯れた花は「滅びゆくもの」
第Ⅱ章 1950~58
新たな造形を求めて
『石というものは死んだような生きたような、非情なもんですわねえ、それは黒にもあるんです。僕の絵は”石”が基調になっているんですがね、石のハダが描けたら油絵のハダが描ける。あれほどの固さと重さが描けたら、と思っているんですよ』
香月は油彩画による日本的な美意識の表出をめざし、日本画の画材や木炭を絵の具に混ぜるといった技法の研究に取り込みました。やがて方解末を絵の具に混ぜ、マットな画面を作り、薄く溶いた黒い絵の具で描く方法にたどりつきます。
2章では、香月がシベリア・シリーズにいたるまでの試行を追いかけます。
第Ⅲ章 1959~68
シベリア・シリーズの画家
『シベリアで私は真に絵を描くことを学んだのだ。それまでは、いわばとうぜんのことと前提にしていた絵を描くことができるということが、何者にも得難い特権であることを知った。描いた絵の評価、画家としての名声、そんなことは一切無関係に、私はただ無性に絵が描きたかった』
『記憶につながる制作だから夢の中の色と同じで、あまり多くの色を使えばウソになる。私の思いをジカに人に訴えたい』
3章では、1950年代末から60年代にかけて精力的に描かれたシベリア・シリーズと、同時期に描いた日常身辺をモチーフとした作品を紹介しています。
《復員(タラップ)》1967年 油彩・方解末・木炭・カンヴァス 山口県立美術館蔵
「一九四七年五月二十一日、早朝から甲板に出ていた。眼帯をかけた目に故国の新緑が水平線の上にかすんでみえた。暗い四年間の抑留生活に決別の思いをこめてよごれきった不用のもの(日本では)を海に投げ捨て、引上船「恵由丸」のタラップを降りた」
《駄々子》1968年 油彩・方解末・木炭・カンヴァス 香月泰男美術館蔵
第Ⅳ章 1969~74
新たな展開の予感
4章では、遺作となった《渚〈ナホトカ〉》など、画面に明るい色彩を乗せ、さらなる展開を感じさせる香月の晩年の作品を紹介しています。
《公園雪》1971年 油彩・方解末・木炭・カンヴァス 島川美術館蔵
《青の太陽》1969年 油彩・方解末・木炭・カンヴァス 山口県立美術館蔵
「匍匐訓練をさせられる演習の折、地球に穴をうがったという感じの蟻の巣穴を見ていた。自分の穴に出入りする蟻を羨み、蟻になって穴の底から青空だけを見ていたい。そんな思いで描いたものである。深い穴から見ると、真昼の青空にも星がみえるそうだ」
1974年3月に、生まれ育った家で画家は突然この世を去ります。突然の旅の終わりを迎えた画家のアトリエには《渚〈ナホトカ〉》がイーゼルに掛けられたままでした。
渚(ナホトカ)
「一九四七年五月初旬、私たちはナホトカの渚に下車、漸くたどり着いたといえよう。ああ、この塩辛い水のつながる向こう岸に日本があるのかと舌でたしかめたものだ。私たちは一晩砂浜で寝た。その時の情景を描いた積りだが、何だか日本の土を踏むことなくシベリアの土になった人達の顔、顔を描いているような気がしてならぬ、二〇数年たった今の単純な私の感傷であろうか」
ーHPの解説ー
太平洋戦争とシベリア抑留の体験を描いたシベリア・シリーズにより、戦後美術史に大きな足跡を残した香月泰男(1911-74)の画業の全容をたどる回顧展を開催いたします。
山口県三隅村(現・長門市)に生まれた香月泰男は、1931年に東京美術学校に入学し、自身のスタイルの模索をはじめました。1942年に応召し、復員した1947年以降は、故郷にとどまって身の回りのありふれたものをモチーフに造形的な挑戦を繰り返しました。1950年代後半に黒色と黄土色の重厚な絵肌に到達した香月は、極限状態で感じた苦痛や郷愁、死者への鎮魂の思いをこめて太平洋戦争とシベリア抑留の体験を描き、「シベリアの画家」として評価を確立していきました。
シベリア・シリーズは応召から復員までの主題を時系列にならべて紹介するのが一般的であり、そこではシベリア・シリーズのもつ戦争と抑留の記念碑としての側面が強調されてきたといえるでしょう。しかし、実際の制作の順序は、主題の時系列とはおおきく異なっています。
本展では、シベリア・シリーズを他の作品とあわせて制作順に展示します。この構成は、一人の画家が戦争のもたらした過酷な体験と向き合い、考え、描き続けた道のりを浮かびあがらせるでしょう。戦争が遠い歴史となり、その肌触りが失われつつある今、自身の「一生のど真中」に戦争があり、その体験を個の視点から二十年以上にわたって描き続けた、「シベリアの画家」香月泰男の創作の軌跡にあらためて迫ります。
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