カズオ・イシグロ著「クララとお日さま」を読んでみました、
カズオ・イシグロ、6年ぶりの新作『クララとお日さま』を読んでみました。
2017年ノーベル文学賞を受賞してから初めての長編小説です。
代表作『わたしを離さないで』で臓器提供のためにクローン技術で生まれた子供たちの運命を描きましたが、
新作は、ティーンエージャーの成長を見守る友人役として制作された人型ロボット・クララの視点で物語が進行します。
クララとお日さま
2021年3月15日 初版発行
2021年3月24日 10版発行
著者 カズオ・イシグロ
訳者 土屋政男
発行所 株式会社早川書房
クララがいる店の前には道路を挟んで背の高いRPOビルがあります。
クララとローザが初めてお店に並んだ時に与えられた場所は店央の雑誌台側でした。
あまり日の当たらない場所です。
男子AFのアレックスも横にいました。
AFは、ショーウィンドーに立つことを強く意識しています。
ショーウインドーに立てばお客さんに選ばれやすくなるということもありますが、それ以上に重要と考えていたのは「お日さまと栄養」でした。
ローザがそっと話しかけてきた時がありました。
「ねえ、クララ、一度ショーウィンドーに立ったら、ものすごく健康をもらえて、その後は不足することがないのかしら」
B2型、第三世代は太陽光の吸収に問題があるらしいのです。
他のAFと違いクララには、ショーウィンドーに立って外の世界を細部にいたるまで全部見たいという強い願望もありました。
急足で行き交う勤め人、タクシー、ジョギングの人、観光客、物乞いの人とその犬・・クララは熱心に観察します。
見かけるAFの姿も気になります。
引き取られた家で疎まれているAFもいるのだなと思うこともあります。
そんなクララを店長さんは褒めてくれます。
「よく気づいて良く学ぶAFなのね」
望んでいたショーウインドー入りして4日目、青白くて痩せた、歩き方がほかの人と明らかに違う少女が、ショーウィンドーの前に立ちクララに声をかけてきました。クララはこの少女は14歳くらいかな、と思いました。
その女の子は、クララを気に入ってくれたようです。
「わたしの住んでいるところはね、邪魔になるものが何もないのよ。私の部屋から太陽が沈む場所そのものが見えるの」
「うちにきて一緒に住むようになればわかるわ」
日が経って、再び現れた女の子(ジョジー)は、「日によって気分がすぐれない私だけど絶対うちに来て」と・・
クララはできるだけの本気を込めてうなずきます。
しかし、ジョジーはいつまで経っても来ません。そしてショーウィンドーで過ごす日は終わります。
元の店央に戻って過ごす日々、近所で工事が始まります。
その現場にクーティングズマシンが出現します。クーティングズマシンは普通と違う何かであることにクララは気付きます。
3本の煙突から黒雲のようなもの、汚染物質を噴き出すのです。
お日さまの栄養が届かない日が何日か続くと気分がすぐれなくなります。
工事が終わり、クーティングズマシンがいなくなりました。
店にクララの推定では12歳ぐらいの女の子が父親と現れます。
女の子はクララを気に入りますが、店長はクララの様子を見て、女の子の父親に調整中のB3型を紹介することにします。
女の子と父親が帰った後、店長は女の子に対するクララの対応を叱ります。
「お客様がAFを選ぶのであって逆ではないですからね」
新型のB3型の男子AFの調整が終わり、新しい広告とともに店頭アルコープ、ショーウィンドーに並ぶようになりました。
クララが店央に立ち続ける中、ショーウインドーのB3型の男子AFは売れていきます。
いつも一緒だったローザも買われていきました。
アレックスも家が見つかりました。
クララは、新しく入荷した新型のAFがクララたちB2型AFと意識して距離を置く態度に気がつきます。
ある日の午後店長さんがきて「あなたにもう一度ショーウィンドー入りしてもらおうと思います」「特別価格を付けて」
このショーウィンドー入りの中でいちばん重要なのは、物乞いの人とその犬の身の上に起こったことでした。
物乞いの人が連れ犬を抱く姿で一日中動かないのです。死んでしまったのだとクララは思いました。
しかし、次の朝が明けると素晴らしい日和になりました。
お日さまがあまねく栄養を注いでくれています。
昨日死んでいた物乞いの人と連れ犬はどしているだろうかと目をやると、驚いたことにどちらも生き返っているではありませんか。
2回目のショーウィンドー入りが終わった10日後ジョジーが店に現れました。
長い間体調がっ悪くて来られなかったのです。
「この店にいたはず」探しているのは「しばらくまえショーウィンドーにいた、とてもかわいくて、とても頭のいいAF」
「ショートヘアで、浅黒くて、服装も黒っぽくて、でもとても親切そうな目をして、とても頭がいいの」
店長がジョジーと母親を案内してきました。
母親が「この子はB3型ではないのよね」と尋ねます。
「B2型です」と店長が答えます。
「ママ、私はクララがほしいの、ほかのじゃいや」
母親が「人口親友は、どれも独自の個性を持っているのよね」と店長に訊いています。
会話が続き、母親はクララの能力を試してみることにしました。
ジョジーの歩きからを真似して見せてくれる、とクララ要求します。
母親、ジョジー、店長が、店の中のAFが緊張して注視するなかクララはジョジーの歩き方を再現しました。
「ママ」ジョジ―が抑えた声で言いました。「ママ、お願い」
「いいでしょう。このAFにします」
ジョジ―が急ぎ足で来て、両腕をわたしにまわし、しっかり抱きしめてくれました。
この小説は6部で構成されていますが、第1部に物語の進行における伏線が全て仕組まれています。
クララは、ジョジーと母親、家政婦がいる家に住むことになりました。
「わたしの住んでいるところはね、邪魔になるものが何もないのよ。私の部屋から太陽が沈む場所そのものが見えるの」とジョジ―が店のショーウィンドー越しに話してくれた家に。
太陽が沈むちょうどその場所には『マクベインさんの納屋』があります。
ジョジーにはリックという将来を約束した隣家の友達がいます。
クララがジョジ―の家に来てしばらくが経ち、
ジョジ―主催の交流会が開催されることになります。
交流会にはAFは参加しないのですが、紹介も兼ねてクララは参加します。
悲しいことに、交流会男子参加者にクララは侮蔑的な態度をとられます。
参加者の多くは新型のAFを持っています。
リックも交流会仲間から孤立しています。
リックは向上処置を受けていないのです。
病弱なジョジ―の家に定期的にリックが訪れてきます。
スケッチブックに描いた絵に吹き出しマークを入れて渡し、吹き出しに言葉を書き入れて返す、
そんな遊びをしながら・・・
時に喧嘩しながら。
クララはジョジーの家の、リックの家の事情を理解していきます。
そして二家族はジョジーの母親の運転で、子供の将来に関するある計画の実行、進展を確認しに街に出かけることになります。
リックは向上処置を受けていないのです・・・・
ジョジ―の病状はよくないのです・・・
河野恵子氏の巻末解説の言葉、
「クララはカズオ・イシグロが創ったもっとも美しい子供だ」に賛同です。
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