北海道縄文人 全ゲノム完全解読(礼文島の船泊遺跡から出土した約3800年前の縄文人)
国立科学博物館 日本館2階回廊で行われている科博NEWS展示
「北海道縄文人 全ゲノム完全解析」を見てきました。(〜7月21(日)まで)
縄文人、弥生人のゲノム解析は進んでいて、科博でも何度か企画展が開催されてきました。
日本人は大陸からどのようにして、どのようなルートでこの地に辿り着いたのか?
そして、それぞれの時代の各地の人々に大陸人のゲノムがどの程度含まれるのか?
先日『3万年前の航海 徹底再現プロジェクト、最後の挑戦!』が行われ、丸木舟で台湾から難関黒潮を乗り越えてみごと与那国島にたどり着きました。琉球海洋ルートの実証実験成功です。
この展示の、北海道縄文人は大陸集団から別れた後の縄文人で(北海道はかつて大陸と陸続きだった)、旧石器時代に日本列島に入ってきた人々の子孫なのだろうと・・・・・・
以下に展示パネルの内容を、書き写しておきます。
1.今回の研究の概要
国立科学博物館の研究者を含む国内7研究機関11名からなる共同研究グループは、北海道礼文島の船泊遺跡から出土した約3800年前の縄文人のゲノムを高精度で明らかにし、論文で発表しました。この研究によって、船泊遺跡出土の縄文人がエスキモーなどと同じく高脂質食の代謝に有利な遺伝的変異を持つことや、現代の狩猟採集民と似た集団の遺伝的特徴を持つことが明らかになりました。また現代の東アジアの広い地域の沿岸部周辺の集団と縄文人とのあいだに遺伝的親和性があることも示され、縄文人の起源を考える上で重要な発見となりました。この縄文人が大陸集団から別れたのは3万8千年〜1万8千年前で、縄文時代以前であることもわかりました。縄文人は縄文時代より前の時代(旧石器時代)に日本列島に入ってきた人々の子孫なのでしょう。なお現代の日本人には、この縄文人のゲノムの10%程度が伝わっていることも明らかになっています。
2.研究の意義
これまでも全国から出土した数体の縄文人のゲノムが明らかになっていました。しかし、それらの研究では膨大なゲノム情報を部分的に明らかにしただけで、現代人と同じ精度で調べられたわけではありませんでした。古代人のゲノムは、人骨が長い間地中に埋まっているために破壊されてしまっており、今回のような精度の高い分析を行う事は非常に困難なのです。古代人のゲノム解析は2010年頃から行われるようになりましたが、これほどの精度で解析ができた古代人はそれほどなく、アジアでは初めての報告となります。
現代人のゲノム研究は現在、猛烈な勢いで進んでおり、多量のゲノムデータが集積されつつあります。今回の縄文人のデータを、これらのデータと直接比較することで、さまざまな解析が可能になります。現在私たちのもとには、世界中の研究者からこの縄文人のゲノムデータのリクエストが来ています。近い将来、このデータを使った研究が発表されていくことになるでしょう。
3.船泊遺跡の紹介
北海道の最北端に位置する礼文島には10カ所以上の縄文時代の遺跡があります。今回分析した人骨が発掘された船泊遺跡はその中のひとつです。1998年に町の教育委員会によって大規模な発掘調査が行われ、縄文時代後期の住居後や作業場跡、墓などの遺構と、土器、石器、骨角器、貝製品など大量の文化遺物とともに28体の人骨が発見されました。
今回、ゲノムの分析を行ったのはそのうちの男女2体(23号女性と5号男性)でDNAの残りの良かった女性で、高精度のゲノム情報を得ることができました。
今回の解析では、彼女がCPT1A遺伝子の変異を持つこともわかりました。
この変異は高脂肪食の代謝に有利で、北極圏に住むヒト集団ではこの変異した遺伝子の頻度は70%を超えています。しかし、現代日本人にはこの変異はほぼ存在しません。船泊遺跡の出土遺物の分析から、船泊縄文人の生業活動は狩猟・漁撈が中心であったことが示されており、この変異は彼らの生活様式と関連していた可能性があります。考古遺物から推定される彼らの生活が、遺伝子からも裏打ちされたことになります。
4.復顔像の紹介
ゲノムの働きを推測する研究の成果
ヒトの持つDNAには、ごくわずかだが個人差があり、ゲノム全体では、おおむね1000文字分のDNA配列につき1箇所の割合で塩基が異なっていると考えられています。集団の内部に見られるこのような変異を一塩基多型(SNP)と呼び 、21世紀になって各個人が持つ膨大な数のSNPを一度に分析する技術が発達したことで、分析が急速に進みました。SNPは広くゲノムの中に散在するので、これを目印にして遺伝子の働きを推測することができます。
例えば、ある病気にかかっている人の集団と、そうでない人たちのSNPを比較するとしましょう。特定のSNPが病気になっている人たちだけに見つかると、その病気の原因となっている遺伝子が、特定されたSNPのそばにあると見当を付けることができます。
この手法は病気の原因となるDNAの変異を見つけるだけではありません。
例えば目の色の違いや、身長の高低、髪がストレートなのか縮れているのか、など、さまざまなな見た目の違いに関するSNPを探すことも可能です。SNPに関する知識が増えていくと、SNPを調べるだけで、その個人の持つ様々な遺伝情報を類推することができるようになります。実際にこのような方法で、現在では多数のSNPと表現型の間の関係が分かっています。
古代人のゲノムを現代人と同じレベルで知ることができれば、このSNP情報からその人がどのような姿形をしていたのか、という情報を取得することも可能になります。今回の縄文人の復元も、このSNPデータをもとに行ったものです。
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