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2016.10.17

杉本博司 ロスト・ヒューマン

Photo

杉本博司 ロスト・ヒューマン
東京都写真美術館で開催されています。 

会期 2016年9月3日(土)~11月13日(日)

この美術館、場所には、思い入れがあります。
詳しくは記しませんが、沢山の記憶、思い出が積もった場所です。

そんなこともあり、とても印象に残る展覧会でした。

この展覧会は、というか杉本博司の作品には、時の積層が底流にあるようです。

「今日 世界は死んだもしかすると昨日かもしれない」
古びた、錆びたトタンと古い材木で仕切られた各コーナーには、杉本が創作した33の物語に従って、それぞれの職業の死が象徴的に表現されています。
張り出された文章の文字面の違いに気づくと思いますが、筆記は著名人です。
(筆記者リストは、開催後しばらくして、配布されたような気がしますが?)
肉筆考ということで、ここにも意味を持たせています。

A
B


混んでいると、難しいですが・・・丹念に読んで、展示品を観ていくことが肝心ですよ!


例えば・・・

政治家

今日 世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない。今日よりも、明日の暮らしは良くなることを、国民に約束した私は馬鹿だった。資本主義の拡大再生産には限界があることを、私は薄々知っていた。知っていながら、私は薔薇色の未来を政治家として喧伝せざるを得なかった。景気が悪くなるたびに、私は不換紙幣を乱発し、国債発行で未来に借金を重ねた。そした、来る日が来てしまった。世界同時株安と国債の暴落。未来の付けを、今払わなくてはならなくなってしまった。私の代でこんなことが起こるとは思ってもみなかった。私は誠意をもって国民の幸福を思った。それが仇となってしまった。国民全員の幸福より、全員の薄い不幸のほうがましだったのだろう。カリブの小国のような共産主義も捨てたものではなかったのだ。私は幸福を求めすぎて、絶滅を呼んでしまった。私の遺伝子などは暗殺された方がましだ。
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「今日 世界は死んだもしかすると昨日かもしれない」
フィデル・カストロ サンディ  1999/2012年
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi


-----その他の展示品の一部をチラシから-----

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「今日 世界は死んだもしかすると昨日かもしれない」
バレ・ド・トーキョー(パリ) 展示風景より 2014年
©Hiroshi Sugimoto

3
「今日 世界は死んだもしかすると昨日かもしれない」
岡本太郎 太陽の塔(模型) 1970年
©Hiroshi Sugimoto


4
「今日 世界は死んだもしかすると昨日かもしれない」
ロシア宇宙飛行士用大便器、小便器
銘 スペースファウンテン
©Hiroshi Sugimoto

「廃墟劇場」
皆さんご存知の「劇場」シリーズの発展形?で、廃墟と化したアメリカ各地の映画館にプロジェクターを持ち込んで(パリの一館あり)映画一本を上映しその光の層で大型カメラのネガフィルムに劇場内部を浮き上がれせています。現場で現像確認しながらの繰り返しで完成させるという大変な仕事です。
床面には上映作品とあらすじが表示されています。まさに上演作品、制作過程、時間を一枚の写真に集積した作品です。その総体を鑑賞するわけです。
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《パラマウント・シアター、ニューアーク》 2015年 ゼラチン・シルバー・プリント
シルバー・プリント
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi


「仏の海」

京都 蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)の千手観音を撮影した作品です。
7年越しの交渉の末、1995年5月、早朝の自然光のみで大判カメラで撮影した9点が展示されたいます。
光学ガラスで作られた「光学五重塔」の展示もあります。
1
仏の海 1995年
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

HPの解説。

東京都写真美術館はリニューアル・オープン/総合開館20周年記念として「杉本博司ロスト・ヒューマン」展を開催します。杉本博司は1970年代からニューヨークを拠点とし、〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉などの大型カメラを用いた精緻な写真表現で国際的に高い評価を得ているアーティストです。近年は歴史をテーマにした論考に基づく展覧会や、国内外の建築作品を手がけるなど、現代美術や建築、デザイン界等にも多大な影響を与えています。

本展覧会では人類と文明の終焉という壮大なテーマを掲げ、世界初発表となる新シリーズ<廃墟劇場>に加え、本邦初公開<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>、新インスタレーション<仏の海>の3シリーズを2フロアに渡って展示し、作家の世界観、歴史観に迫ります。
展覧会はまず、文明が終わる33のシナリオから始まります。「今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない」という杉本自身のテキストを携え、≪理想主義者≫≪比較宗教学者≫≪宇宙物理学者≫などの遺物と化した歴史や文明についてのインスタレーションを巡り歩きます。これは2014年パレ・ド・トーキョー(パリ)で発表し、好評を博した展覧会を東京ヴァージョンとして新たに制作したもので、自身の作品や蒐集した古美術、化石、書籍、歴史的資料等から構成されます。物語は空想めいていて、時に滑稽ですらあります。しかし、展示物の背負った歴史や背景に気づいた時、私たちがつくりあげてきた文明や認識、現代社会を再考せざるを得なくなるでしょう。

そして、本展覧会で世界初公開となる写真作品<廃墟劇場>を発表します。これは1970年代から制作している<劇場>が発展した新シリーズです。経済のダメージ、映画鑑賞環境の激変などから廃墟と化したアメリカ各地の劇場で、作家自らスクリーンを張り直して映画を投影し、上映一本分の光量で長時間露光した作品です。8×10大型カメラと精度の高いプリント技術によって、朽ち果てていく華やかな室内装飾の隅々までが目前に迫り、この空間が経てきた歴史が密度の高い静謐な時となって甦ります。鮮烈なまでに白く輝くスクリーンは、実は無数の物語の集積であり、写真は時間と光による記録物であるということを改めて気づかせてくれるこれらの作品によって、私たちの意識は文明や歴史の枠組みを超え、時間という概念そのものへと導かれます。その考察は、シリーズ<仏の海>でさらなる深みへ、浄土の世界へと到達します。<仏の海>は10年以上にわたり作家が取り組んできた、京都 蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)の千手観音を撮影した作品です。平安末期、末法と呼ばれた時代に建立された仏の姿が、時を超えていま、新インスタレーションとなって甦ります。
人類と文明が遺物となってしまわないために、その行方について、杉本博司の最新作と共に再考する貴重な機会です。ぜひご高覧ください。

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