木々康子著 春画と印象派 ”春画を売った国賊”林忠正をめぐって
2013年から2014年にかけて大英博物館で行われた 「春画 日本美術の性とたのしみ」は大きな話題を呼びました。
そして、日本初の「春画展」が永青文庫で2015年9月19日(土)〜12月23日まで開催されました。
国内での過去の展覧会でも、「注意書き付き」の春画コーナーで、数点展示するケースはよく見かけましたが・・・
本書の初版発行が2015年3月です。
本書の「あとがき」で著者は次のように語っています。
タイトルの「春画」に、私はジャポニズムのルビをつけるつもりだった。春画だけを扱っているのではなく、浮世絵(春画)がジャポニズムのすべてに関わっていると説明したかったからである。だが、ルビがなくても、私意を十分に盛り込めると判断して、ルビをつけずに「春画と印象派」と決定した。単なる春画の本ではなく、印象派、そして近世から近代に及ぶ日本とヨーロッパの文化の問題として、この本を読んでいただければ幸いである。
著者の義祖父である林忠正に、その彼の背に、祖国は「国賊」レッテルを貼った。林が誇りをもって世界に紹介した江戸の文化が、卑しい淫らなものだからという理由で。
日本人としてただ一人、印象派の画家と親交を結び、彼らの革新運動を経済的にも助けた林を知る人は少ない。
しかし、著者に直接手紙で質問したり、自宅まで訪ねてくる外国のジャポニズム研究者は多くいて、世界は林忠正を忘れてはいないのだ・・・
バルセロナ大学の教授の訪問を受けた著者は、大英博物館で開催予定の、「春画展」、「ピカソと春画展」で、ピカソの作品に影響を与えた多くの春画が展示されたこと、ヨーロッパでの芸術性への評価の高さ、大量のコレクションの存在などを教わる。
40年近く林忠正について調べ続けている著者は、林のヨーロッパでの行動や印象派、浮世絵との関わりなど、その全体像をほぼ捉えていると思っていた。だが、これまで調べようとも思わなかった春画が突然、世界に類を見ない芸術作品であり林にとっても印象派にとっても、重要な意味を持っていることを知ったのである。
春画の調査との取り組みがここから始まった。
(西洋の自由と江戸の自由)のなかで・・・
「自由」という言葉のありようを幕末期までの日本とフランスとでの違いを考察して・・・
しかし、江戸時代の日本には「西洋が知らない自由」があったのではないか。江戸時代を、否定すべき古い時代だと思っていた私は、封建制の圧政に中で、世界に稀な浮世絵(春画)をつくり続けていた江戸の「自由」を、改めてすばらしいと思った。近代絵画を拓いた印象派の人々が憧れたのも、この江戸の「自由」だったのではなかったか。
岩佐又兵衛、北斎、師宣、清長、歌麿、クールベ、マネに始まる印象派の画家、レンブラント、フェルメール、
ドビュッシーとカミーユ・クローデルなどなどと春画 、興味深い話が・・・・
目次
はじめに
第一章 林忠正について
渡仏まで
万国博覧会―ただ一人の日本美術の説明者
美術店を開く―ジャポニズムの中心人物として
浮世絵と林忠正
第二章 浮世絵と春画
庶民の中から生まれた浮世絵
歌舞伎と遊郭
明治期の遊郭―吉原にて
岩佐又兵衛と菱川師宣
ルイ・ゴンスの「日本美術」と「日本美術回顧展」
第三章 春画について
春画とは
ルイス・フロイスが見た日本の男女と宗教
西洋人は浮世絵(春画)をどう見たか
隠されている春画
抑圧されていた西洋の女性
魔女狩り
第四章 ヨーロッパと日本
洛中洛外図と浮世絵
江戸の女房達
民法典論争と春画
西洋の自由と江戸の自由
第五章 浮世絵とオランダ
鎖国
17世紀のオランダ
オランダと貿易
シーボルト事件
シーボルトの大著「日本」
シーボルトの日本博物館とアルフォンス・ドーデ
第六章 ヨーロッパの近代への序曲
日本版画との出会い
新しい芸術を求めて
E・ゴンクールと浮世絵
キリシタンと仏教
日本の宗教
第七章 浮世絵(春画)の渡仏
開国と江戸の文化
フィリップ・ビュリティと林忠正
ビュリティと春画
ユゴーの「海に働く人々」
ユゴーとビュリティと浮世絵
第八章 近代絵画の誕生
1863年のサロン
マネの背を押したのは誰か
春画がもたらした新しい動き
林忠正の履歴書から
浮世絵と林忠正
マネとドガ
ゴンクールの春画・あぶな絵についての日記
第九章 ドビュッシーとカミーユ・クローデル
クロード・ドビュッシー
カミーユ・クローデル
ドビュッシー「海―管弦楽のための三つの交響楽的素描」
とカミーユの「波」
第十章 春画を売った国賊
1900年パリ万博博覧会と版画
事務官長の職責が林に与えたもの
林忠正に贈られた言葉
あとがき
参考文献
著者 木々康子
発行所 株式会社 筑摩書房
2015年3月10日 初版発行
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