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2016.08.29

芥川賞受賞作 村田沙邪香著「コンビニ人間」を読んでみた。

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このままでは社会に出られないと、母も父も心配していた。
私は、「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。
そんな、古倉恵子は大学一年生で新規開店のスマイルマート日色町駅前店でアルバイトを始める。
それから18年、休まず、早朝出勤でマニュアルを遵守し、店長からも、仲間からも信頼されている。
コンビニが、生活の全てのような人生を送っていた。
人材不足の中、新人アルバイト白羽が入ってきて・・・・

針小棒大とは言わないまでも、現実の話を膨らませないと小説として読んでもらえないですよね。
そう思いつつも、この小説は結構リアルだなと、・・・・・・職場の人間関係、心象風景を上手く表現してます。
コンビニ日常って、こういう感じなんだあ・・・・
昔の職場の人間がダブったりして・・・・
さらに、新人アルバイト白羽の登場で、小説本来の面白さが増してきます。

「コンビニ人間」と似たり寄ったりかもしれませんね、サラリーマンとして勤め続ける人間の風景って!

飽きずに読めました。
近頃の小説、途中で投げ出すことが多すぎるので・・・自分自身、根気が亡くなってきただけなのででしょうが。

コンビニエンスストアは、音に満ちている。客が入ってくるチャイムの音に、店内を流れる有線放送で新商品を宣伝するアイドルの声、店員の掛け声に、バーコードをスキャンする音。かごに物を入れる音、パンの袋が握られる音に、店内を歩き回るヒールの音、全てが混ざり合い、「コンビニの音」になって、私の鼓膜にずっと触れている。

・・・・・・(店内の情景・・・客とのやり取り・・・・店長との会話が綴られる)・・・・・

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コンビニ店員として生まれる前のことは、どこかおぼろげで、鮮明には思い出せない。
郊外の住宅地で育った私は、普通の家に生まれ、普通に愛されて育った。けれど、私は少し奇妙がられる子供だった。

・・・・・・(奇妙がられる子供・・その所以が綴られる)・・・・・・・

学校で友達はできなかったが、特に苛められるわけでもなく、私はなんとか、余計なことを口にしないことに成功したまま、小学校、中学校と成長していった。
高校を卒業して大学生になっても、私は変わらなかった。基本的に、休み時間は一人で過ごし、プライベートな会話はほとんどしなかった。小学校のころのようなトラブルは起ききなかったが、そのままでは社会に出られないと、母も父も心配した。私は、「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。

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スマイルマート日色町駅前店がオープンしたのは、1998年5月1日、私が大学一年生の時だった。

・・・・(採用が決まり、研修が行われる)・・・・

「岡本さん、恥ずかしがらないでもっとにっこり! 相崎くん、もっと声を出して、はいもう一度! 古倉さん、いいねいいね! そうそう、その元気!」
私はバックルームで見せられた見本のビデオや、トレーナーの見せてくれるお手本の真似をするのが得意だった。今まで、だれも私に、「これが普通の表情で、声の出し方だよ」と教えてくれたことはなかった。

・・・・(コンビニでの日々の生活、仲間との会話が綴られていく。店員どうしの話し方、イントネーション、服装が、似通ってくる、などなど・・・思い当たる節が誰にもありそうで面白い)・・・・・

「いらっしゃいませ、おはようございます」
この瞬間がとても好きだ。自分の中に、「朝」という時間が運ばれてくる感じがする。
外から人が入ってくるチャイムの音が、教会の鐘の音に聞こえる。ドアをあければ、光の箱が私を待っている。いつも回転し続ける、ゆるぎない正常な世界。私は、この光に満ちた箱の中の世界を信じている。

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私は金曜日と日曜日が休みなので、平日の金曜日、結婚して地元で暮らしている友達に会いに行くことがある。
学生時代は「黙る」ことに専念していたのでほとんど友達はいなかったが、アルバイトを始めてから行われた同窓会で旧友と再会してからは地元に友達ができた。

・・・(友人との”集まり”での会話が綴られる、時には結婚している友人の連れ合いも参加して、好奇の目で・・)・・・・

「恵子は、まだ結婚とかしてないの?」
「うん、してないよ」
「え、じゃあまさか、今でもバイト?」


「変なこと聞いていい? あのさあ、恵子って恋愛ってしたことある?」
冗談めかしながらサツキが言う。
「恋愛?」
「付き合ったこととか・・・・恵子からそういう話、そういえば聞いたことないなって」
「ああ、ないよ」
反射的に正直に答えてしまい、皆が黙り込んだ。


「うーん、とにかくね、私は身体が弱いから!」
と、妹が、困ったときにはとりあえずこう言えといっていた言い訳をリピートした。


早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付けていれば全員が、「店員」という均等な存在だ。

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朝、早く目が覚めてしまったときは、一駅前で降りて店まで歩くことにしている。


「おはようございます」
「あ、おはよう古倉さん、今日も早いね!!」
店長は30歳の男性で、常にきびきびとしている。口は悪いが働き者の、この店で8人目の店長だ。

18年間、「店長」は姿を変えながらずっと店にいた。一人一人違うのに、全員合わせて一匹の生き物であるような気持になることがある。
8人目の店長は声が大きく、バックルームではいつも彼の声が反響している。
「あ、今日、新人の白羽さんとだから! 夕方に研修してたから昼勤は初めてだよね。よろしくしてあげてね!!」
「はい!」


ちょっと困った人?新人アルバイト白羽が入ってきますが、結局務まらず、辞めてしまいます。
ひょんなことから白羽と再会、物語は「あれえ〜?」という展開になるのですが・・・・・

結末がまた・・・・タイトル「コンビニ人間」の所以。


村田沙耶香さん『コンビニ人間』 芥川賞受賞記念インタビュー

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