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2016.08.29

芥川賞受賞作 村田沙邪香著「コンビニ人間」を読んでみた。

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このままでは社会に出られないと、母も父も心配していた。
私は、「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。
そんな、古倉恵子は大学一年生で新規開店のスマイルマート日色町駅前店でアルバイトを始める。
それから18年、休まず、早朝出勤でマニュアルを遵守し、店長からも、仲間からも信頼されている。
コンビニが、生活の全てのような人生を送っていた。
人材不足の中、新人アルバイト白羽が入ってきて・・・・

針小棒大とは言わないまでも、現実の話を膨らませないと小説として読んでもらえないですよね。
そう思いつつも、この小説は結構リアルだなと、・・・・・・職場の人間関係、心象風景を上手く表現してます。
コンビニ日常って、こういう感じなんだあ・・・・
昔の職場の人間がダブったりして・・・・
さらに、新人アルバイト白羽の登場で、小説本来の面白さが増してきます。

「コンビニ人間」と似たり寄ったりかもしれませんね、サラリーマンとして勤め続ける人間の風景って!

飽きずに読めました。
近頃の小説、途中で投げ出すことが多すぎるので・・・自分自身、根気が亡くなってきただけなのででしょうが。

コンビニエンスストアは、音に満ちている。客が入ってくるチャイムの音に、店内を流れる有線放送で新商品を宣伝するアイドルの声、店員の掛け声に、バーコードをスキャンする音。かごに物を入れる音、パンの袋が握られる音に、店内を歩き回るヒールの音、全てが混ざり合い、「コンビニの音」になって、私の鼓膜にずっと触れている。

・・・・・・(店内の情景・・・客とのやり取り・・・・店長との会話が綴られる)・・・・・

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コンビニ店員として生まれる前のことは、どこかおぼろげで、鮮明には思い出せない。
郊外の住宅地で育った私は、普通の家に生まれ、普通に愛されて育った。けれど、私は少し奇妙がられる子供だった。

・・・・・・(奇妙がられる子供・・その所以が綴られる)・・・・・・・

学校で友達はできなかったが、特に苛められるわけでもなく、私はなんとか、余計なことを口にしないことに成功したまま、小学校、中学校と成長していった。
高校を卒業して大学生になっても、私は変わらなかった。基本的に、休み時間は一人で過ごし、プライベートな会話はほとんどしなかった。小学校のころのようなトラブルは起ききなかったが、そのままでは社会に出られないと、母も父も心配した。私は、「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。

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スマイルマート日色町駅前店がオープンしたのは、1998年5月1日、私が大学一年生の時だった。

・・・・(採用が決まり、研修が行われる)・・・・

「岡本さん、恥ずかしがらないでもっとにっこり! 相崎くん、もっと声を出して、はいもう一度! 古倉さん、いいねいいね! そうそう、その元気!」
私はバックルームで見せられた見本のビデオや、トレーナーの見せてくれるお手本の真似をするのが得意だった。今まで、だれも私に、「これが普通の表情で、声の出し方だよ」と教えてくれたことはなかった。

・・・・(コンビニでの日々の生活、仲間との会話が綴られていく。店員どうしの話し方、イントネーション、服装が、似通ってくる、などなど・・・思い当たる節が誰にもありそうで面白い)・・・・・

「いらっしゃいませ、おはようございます」
この瞬間がとても好きだ。自分の中に、「朝」という時間が運ばれてくる感じがする。
外から人が入ってくるチャイムの音が、教会の鐘の音に聞こえる。ドアをあければ、光の箱が私を待っている。いつも回転し続ける、ゆるぎない正常な世界。私は、この光に満ちた箱の中の世界を信じている。

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私は金曜日と日曜日が休みなので、平日の金曜日、結婚して地元で暮らしている友達に会いに行くことがある。
学生時代は「黙る」ことに専念していたのでほとんど友達はいなかったが、アルバイトを始めてから行われた同窓会で旧友と再会してからは地元に友達ができた。

・・・(友人との”集まり”での会話が綴られる、時には結婚している友人の連れ合いも参加して、好奇の目で・・)・・・・

「恵子は、まだ結婚とかしてないの?」
「うん、してないよ」
「え、じゃあまさか、今でもバイト?」


「変なこと聞いていい? あのさあ、恵子って恋愛ってしたことある?」
冗談めかしながらサツキが言う。
「恋愛?」
「付き合ったこととか・・・・恵子からそういう話、そういえば聞いたことないなって」
「ああ、ないよ」
反射的に正直に答えてしまい、皆が黙り込んだ。


「うーん、とにかくね、私は身体が弱いから!」
と、妹が、困ったときにはとりあえずこう言えといっていた言い訳をリピートした。


早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付けていれば全員が、「店員」という均等な存在だ。

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朝、早く目が覚めてしまったときは、一駅前で降りて店まで歩くことにしている。


「おはようございます」
「あ、おはよう古倉さん、今日も早いね!!」
店長は30歳の男性で、常にきびきびとしている。口は悪いが働き者の、この店で8人目の店長だ。

18年間、「店長」は姿を変えながらずっと店にいた。一人一人違うのに、全員合わせて一匹の生き物であるような気持になることがある。
8人目の店長は声が大きく、バックルームではいつも彼の声が反響している。
「あ、今日、新人の白羽さんとだから! 夕方に研修してたから昼勤は初めてだよね。よろしくしてあげてね!!」
「はい!」


ちょっと困った人?新人アルバイト白羽が入ってきますが、結局務まらず、辞めてしまいます。
ひょんなことから白羽と再会、物語は「あれえ〜?」という展開になるのですが・・・・・

結末がまた・・・・タイトル「コンビニ人間」の所以。


村田沙耶香さん『コンビニ人間』 芥川賞受賞記念インタビュー

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2016.08.24

大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで

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大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで

江戸東京博物館で開催されています。

会期 2016年07月05日(火)〜08月28日(日)

公式ホームページはこちら


夏休み中はこの様な企画展が定番ですね。

”縄文時代後期の土偶から、江戸の化け物、そして現代の「妖怪ウォッチ」まで、4000年の妖怪たちが大集合!日本人が表現してきた妖怪の全てがわかります。”

ということですが、土偶と妖怪ウォッチは最終展示コーナーに”おまけ”?的な展示になっています。(あくまでも私の感想ですが・・・)

化物、鬼、幽霊、地獄、妖怪のオンパレード、日本人の心(私の?)に沁み込んだ、そのイメージの再確認という感じでした。

時代、宗教(仏教、神道・・)、庶民生活等々を背景に、軸物、版画(錦絵)、版本、巻物で不思議、不可解の心模様を如何に表現してきたのか・・・・奇想天外、針小棒大の世界も楽しい。

「夜眠れなくなっちゃうから、見ない」なんて言う子供もいたりして、家族連れ、外国人観光客?も含め、混雑していました。
営業的には”当たり”ですかね。

私の期待は”幽霊画”でした。
期待にそぐわず、良い作品が展示されていて満足でした。
(常設展示室の特設コーナーでも「伊藤晴雨 幽霊画展」が開催されています。こちらもお勧め!)


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雨中幽霊図 勝川春章
紙本着色 江戸時代(18世紀) 千葉徳願寺蔵

2
幽霊図 丸山応挙
紙本着色 江戸時代(19世紀) 千葉 徳願寺蔵

3
海坊主 歌川芳延
紙本着色 明治時代(19世紀) 東京 全生庵蔵

4
牡丹灯籠 開井掬水
絹本着色 明治末〜昭和初期(20世紀) 福島 金性寺蔵  

5
提灯に幽霊 夕岳
絹本着色 明治末〜大正(20世紀) 福島 金性寺蔵  

展示構成は次の通りです。

第1章 江戸の妖怪大行進!
A.これが江戸の妖怪だ!
B.物語になった妖怪たち
C.妖怪大図鑑
D.幽霊画の世界
E.錦絵の妖怪
F.版本の妖怪

第2章 中世にうごめく妖怪

第3章 妖怪の源流 地獄・もののけ
A.地獄にうごめくものたち
B.縄文人の不安の造形化

第4章 妖怪転生

HPの解説から。

 妖怪は、日本人が古くから抱いてきた、異界への恐れ、不安感、また〝身近なもの〟を慈しむ心が造形化されたものです。「百鬼夜行絵巻」(ひゃっきやぎょうえまき)などに描かれた妖怪たちの姿は、一見すると不気味ながら、実に愛らしさにあふれています。

 日本絵画史上、異界の生き物としての「鬼」や「化け物」が登場するのは平安時代の末期、12世紀とされます。たとえば、平安時代末期から鎌倉時代にかけては、邪気を退治する神々を描いた国宝「辟邪絵」(へきじゃえ)や、国宝「六道絵」(ろくどうえ)に地獄の様相があらわされ、鬼が数多く登場します。これらが妖怪誕生のイメージ・ソースとなります。中世に入ると、いよいよ妖怪の登場です。気弱そうで同情を引く顔つきの妖怪が登場する重要文化財「土蜘蛛草紙絵巻」(つちぐもそうしえまき)や、古道具を妖怪化させて物の大切さを説く「付喪神絵巻」(つくもがみえまき)など、親しみやすさが色濃くなります。さらには、コミカルな鬼たちが京を闊歩する室町時代の重要文化財「百鬼夜行絵巻」や、江戸時代では葛飾北斎「百物語」や歌川国芳「相馬の古内裏」(そうまのふるだいり)などの作品が、後世に大きな影響を与えました。

 本展では、古くから日本で愛されてきた妖怪、すなわち〝異界への畏れの形〟の表現の展開を、縄文時代の土偶から、平安・鎌倉時代の地獄絵、中世の絵巻、江戸時代の浮世絵、そして現代の「妖怪ウォッチ」まで、国宝・重要文化財を含む一級の美術品で紹介します。民俗学にかたよりがちだった従来の妖怪展とは一線を画す美術史学からみた〝妖怪展の決定版〟です。

6
国宝「辟邪絵 神虫」(部分)
平安~鎌倉時代(12世紀)
奈良国立博物館蔵

7
百物語 小はだ小平次 葛飾北斎
天保(1830〜44)初期 中外産業株式会社(原安三郎コレクション)蔵

8
「稲生物怪録絵巻」(いのうもののけろくえまき)(部分)
安政6年-万延元年(1859-1860) 
個人蔵 写真/三次市教育委員会寄託

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2016.08.20

オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展

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オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展
国立新美術館で開催されています。

会 期 2016年4月27日(水)~8月22日(月)

展覧会ホームページはこちら


印象派の展覧会って、日本で開催される展覧会の何割を占めるのだろうか?なんて考えてしまいます・・・


この展覧会の目玉作品は日本初公開のルノワールの最高傑作《ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会》ですね。
揺れる木漏れ日の中、舞踏会を楽しむ人々の楽しそうな空気が伝わってきます。
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《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》
1876年 油彩/カンヴァス
オルセー美術館

そして、45年ぶりにそろって来日の《田舎のダンス》《都会ののダンス》
《田舎のダンス》のモデルは、後のルノワールの妻
《都会ののダンス》のモデルはユトリロの母親ヴァランドン
だそうです。

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《田舎のダンス》
1883年 油彩/カンヴァス
オルセー美術館

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《都会のダンス》
1883年 油彩/カンヴァス
オルセー美術館

数年前に、この美術館で開催された「ルノワール伝統と革新展」に「ブウージヴァルのダンス」が展示されていました。また来てるの?と勘違いしていましたが・・・・
この展覧会には展示されていません。
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この絵画のモデルも、「ヴァランドン」ですよね。


風景画の小品にも良い作品がありましたし、裸婦画の大作は見ごたえがありました。

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《草原の坂道》
1875年頃 油彩/カンヴァス
オルセー美術館

ルノワールの裸婦画は、それこそ何度も観てきて、あまり好きではなかったのですが、今回来ている大作は、とても良かったです。今まで観てきた小品(デッサンも含めて)とこんなにも印象が違うのか・・・と思いました。

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《浴女たち》
1918-1919年 油彩/カンヴァス
オルセー美術館


このルノワール展は、充実度高いですね!
”色彩は幸福を祝うために”

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《ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル》
1897-1898年頃 油彩/カンヴァス 73 × 92 cm
オランジュリー美術館、ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム・コレクション

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《ジュリー・マネ》あるいは《猫を抱く子ども》
1887年 油彩/カンヴァス
オルセー美術館

展覧会の構成は以下の通り。

1章 印象派へ向かって

2章 「私は人物画家だ」: 肖像画の制作

3章 「風景画家の手技(メチエ)」

4章 “現代生活”を描く

5章 「絵の労働者」: ルノワールのデッサン

6章 子どもたち

7章 「花の絵のように美しい」

8章 《ピアノを弾く少女たち》の周辺

9章 身近な人たちの絵と肖像画


HPの解説。

世界でも有数のルノワール・コレクションを誇る、オルセー美術館とオランジュリー美術館。本展覧会は、両美術館が所蔵する、100点を超える絵画や彫刻、デッサン、パステル、貴重な資料の数々によって画家ピエール・ オーギュスト・ ルノワール(1841-1919)の全貌に迫ります。
写実的な初期作品から、薔薇色の裸婦を描いた晩年の大作まで、多様な展開を見せたその画業。全10章を通して、肖像や風景、風俗、花、子ども、裸婦といった画家が愛した主題をご紹介します。同時に、革新的な印象派の試みから、伝統への回帰、両者の融合へと至る軌跡も浮かび上がるでしょう。画家が辿った道のりは、常に挑戦であり、終わることのない探究でした。
そして、このたび、ルノワールの最高傑作《ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会》(1876年)が日本ではじめて展示されます。幸福に身を委ねる人々、揺れる木漏れ日、踊る筆触―本物のルノワールに出会う、またとない機会となるでしょう。


TOKYO MX NEWS
国立新美術館 ルノワール展が開幕

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2016.08.15

チャリティーイベント、旅への憧れ、愛しの風景-マルケ、魁夷、広重の見た世界-

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チャリティーイベント、旅への憧れ、愛しの風景-マルケ、魁夷、広重の見た世界-
ホテルオークラ東京アスコットホールで開催されています。

会期 2016年7月27日 (水) ~ 8月18日 (木)

チャリティーに賛同する企業各社の所有する貴重な美術品を一堂に集めて一般公開する『秘蔵の名品 アートコレクション展』も22回目になりました。

粒ぞろいの名品が並ぶことと、必ず、「これはこれは・・・」という作品に出合える絵画展は毎年人気を集めています。


今回は、
”【第2章】 愛しの風景”で
アルベール・マルケ作品が18点展示されています。
これだけのマルケ作品を一度に観ることができたのは幸せでした。
少し離れて、作品の前に立つと、本当の風景の前にいるような気持になるくらい、空気感が見事に伝わってきます。
4
霧のリーブ・ヌーブ、マルセイユ  アルベール・マルケ
1918年  上原近代美術館

5
アルジェの港、ル・シャンポリオンン    アルベール・マルケ
1944年頃  ヤマザキマザック美術館

6
冬のパリ(ポン・ヌフ)   アルベール・マルケ
1947年頃  上原近代美術館

3
テームス河畔   牧野義雄 
制作年不詳  東京藝術大学


”【第3章】 広重、旅への憧れ”では
保永堂版《東海道五十三次》が全点展示されていて、皆さん、今昔の街並みに思いを馳せ、楽しそうに鑑賞していました。
8
保永堂版《東海道五十三次》  日本橋   歌川広重
天保4-5年頃(1833-34)  日本通運株式会社

7
菊の香  上村松園
昭和20年頃(1945)   吉野石膏美術振興財団(天童市美術館に寄託)

【第1章】 日本の風景をめぐる
1
夜汽車  赤松麟作 
明治34年(1901)  東京藝術大学


2
砂丘に聳ゆ  横山大観
昭和15年(1940) 霊友会 妙一コレクション

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2016.08.13

岩合光昭写真展 ふるさとのねこ

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岩合光昭写真展 ふるさとのねこ
そごう横浜店 8階=催会場で
開催されています。

会期 8月10日(水)〜22日(月)

そごう美術館で開催中の
オランダ レンブラント・リサーチ・プロジェクト公認 レンブラント リ・クリエイト展 2016
とともに見てきました。
両展とも、夏休み中の子供を連れた家族で賑わっていました。

岩合光昭さんの写真展は、集客効果があるのでしょう、彼方此方のデパートで頻繁に開催されています。
観に行けば楽しいですから、私も何度か見に行きました。
去年、渋谷ヒカリエホールでも開催された展覧会です。

HPの紹介文

津軽の四季、子ネコたちの物語。

四季それぞれの美しさが際立つ日本。
春夏秋冬を通じて日本の原風景に出会う時、私たちはそこに「ふるさと」を感じるのではないでしょうか。
青森県津軽地方。花咲く春、夏の祭り、リンゴ実る秋、そして深く長い冬。
岩合はこの地に日本の原風景を見、一年をかけて子ネコと人との暮らしを撮影しました。
津軽の四季、そこに生きる子ネコたちの物語。
それは私たちにどこか懐かしい「ふるさと」を感じさせてくれます。

四季をテーマに春、夏、秋、冬の4章で構成されています。
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From Life―写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展

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From Life―写真に生命を吹き込んだ女性
ジュリア・マーガレット・キャメロン展

三菱一号館美術館
開催されています。

会期 2016年7月2日(土)~9月19日(月)

写真草創期の英国で活動したジュリア・マーガレット・キャメロン(1815〜1879年)の生誕200年を記念してロンドンのビクトリア&アルバート博物館が企画した世界巡回展で、国内では初の回顧展です。
三菱一号館美術館での本格的な写真展も珍しいですね。

キャメロンは娘夫婦から、さみしい時にでも写真をやってみたらとカメラを送られます。1863年、48歳の時でした。
独学で写真技術を身に着け、「写真を芸術に高めたい」という志のもと、制作活動に取り組みます。
そして一年半後にはヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の前身である サウス・ケンジントン博物館に114点の作品が買い上げられます。


キャメロンは父が東インド会社の職員であった為、インドで生まれ、フランスで教育を受け、インドに戻り。
その後、家族とともに英国に移り住みます。

写真機を持つこと自体一般的にはあり得ない時代ですから、キャメロンは上流社会での生活を謳歌していた人です。

キャメロンが追及した主題は「肖像」「聖母群」「幻想主義(ファンタジー・サブジェクト)」です。

肖像は、妹夫婦が主催するサロンで交流した著名人や家族をモデルにして撮影しました。

敬虔なクリスチャンで6人の子供の母親であったキャメロンにとって聖母子のモチーフは特別な意味を持っていました。
ルネサンス絵画の構図にならい撮影しました。

そして詩や物語などのワンシーンを写真で表現し、寓意性に富む絵画的作品をつくりました。

ソフトフォーカスを多用した作品は抒情性豊かです。

これらの写真は、湿板写真で撮影されたものだそうです。
ガラス板に下処理を行ったのち感光材を塗り、乾かないうちに、カメラにセットして撮影→現像→定着まで行い、ネガ原板をつくります。
引伸機は無いですから、ネガ原板と最終作品は同寸です。

制作方法(制作過程)を想像しながら鑑賞するのも面白いと思います。
映画、TVドラマなどに登場する、レンズキャップを外して露光(撮影)している・・・あの光景?

展覧会の構成は次の通りです。

第一章 最初の成功からサウス・ケンジントン博物館へ

第二章 痺れさせ驚嘆させる

第三章 名声だけでなく富も

第四章 失敗は成功だった


1
五月祭 1866年頃 

2
ハーバート・ダックワース夫人 1872年

3
ポールとヴェルジニー 1864年

4
ミューズの囁き 1865年

TVCM

ジュリア・マーガレット・キャメロン展|三菱一号館美術館|プレス発表会


HPの展覧会概要

1863年末に初めてカメラを手にしたジュリア・マーガレット・キャメロン(1815-79)は、記録媒体にすぎなかった写真を、芸術の次元にまで引き上げようと試みた、写真史上重要な人物です。インドのカルカッタに生まれ、英国の上層中流階級で社交生活を謳歌していた彼女は、48歳にして独学で写真術を身につけ、精力的に制作活動を展開します。そして、生気あふれる人物表現や巨匠画家に倣った構図を追求するなかで辿りついたのは、意図的に焦点をぼかし、ネガに傷をつけ、手作業の痕跡をあえて残す、といった革新的な手法でした。
本展は、キャメロンの生誕200年を記念し、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が企画した世界6カ国を回る国際巡回展であり、日本初の回顧展です。キャメロン絶頂期の極めて貴重な限定オリジナルプリント(ヴィンテージプリント)をはじめ、約150点の写真作品や書簡などの関連資料を通じて、キャメロンの制作意図を鮮やかに際立たせつつ、彼女が切り拓いた新たな芸術表現の地平を展覧します。

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2016.08.08

アルバレス・ブラボ写真展 ―メキシコ、静かなる光と時

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アルバレス・ブラボ写真展
―メキシコ、静かなる光と時

世田谷美術館で開催されています。

会期 2016年7月2日~8月28日


アルバレス・ブラボは、革命の動乱を経たメキシコが新たな社会建設に向かう1920年代。
モダニズムの写真表現を試み、注目されました。

そして、パリを撮ったウジェーヌ・アジェの作品にも感銘を受けた、アルバレス・ブラボは、モダン都市に変貌しようとするメキシコシティを観察し、社会の一隅に息づく風景を撮ります。

この展覧会は1920年代から1990年代まで、時系列で、アルバレス・ブラボ作品の変遷を展示しています。

アルバレス・ブラボ作品の魅力は・・・・
「構図の匠さ」とハイライト部分、陰影のバリエーションの多様性にあるように思いました。
「静かなる光と時」という表現はうまいですね!

取材は街の俯瞰であったり、石壁に揺らぐ木の葉の影だったり・・・
遺跡であったり、メキシコの原野、原住民を撮った作品等々。
共通するのは、考え抜かれた構図と光の(陰影の)表現です。

晩年の作品には、自宅の庭の干し物を撮ったりしているものもあるのですが、見事な作品に仕上がっています。


政治的、メッセージを誇示するような作品は殆どありませんが、肖像写真には、ディエゴ・リベラ、フリーダ・カーロ、アンドレ・ブルトンやレフ・トロツキーが登場して、ファシズム体制を逃れた亡命芸術家や知識人を数多く受け入れた、当時の(1930-40年代の)メキシコ社会の状勢を偲ばせます。


1
鳥を見る少女 1931年


2
身をかがめた男たち 1934年

3
フリーダ・カーロ 1937年頃


4
世間は何と狭いことか 1942年

5
リュウゼツランの上の窓 1974-76年

6
シリーズ〈内なる庭〉より 1995-97年 

展示構成は次の通りです。

第1部 革命後のメキシコ――1920-30年代

第1章 モダニズムへ

第2章 ざわめく街の一隅で


第2部 写真家の眼――1930-40年代

第1章 見えるもの/見えないもの

第2章 生と死のあいだ

第3章 時代の肖像


第3部 原野へ/路上へ――1940-60年代

第1章 原野の歴史

第2章 路上の小さなドラマ


第4部 静かなる光と時――1970-90年代

第1章 あまねく降る光

第2章 写真家の庭


HPの解説。

20世紀写真史に大きな足跡を残したメキシコの巨匠、マヌエル・アルバレス・ブラボ(1902-2002)。革命の動乱を経て、壁画運動や前衛芸術が盛り上がりを見せた1920年代末に頭角を現し、最晩年の1990年代末に至るまで、一貫して独自の静けさと詩情をたたえた写真を撮り続けました。本展は作家遺族が運営するアーカイヴより全面的な協力を得て、192点のモノクロプリントと多数の資料を、全4部・9章構成で年代順に展覧します。約70年におよぶアルバレス・ブラボの仕事の魅力を紹介する、国内最大規模の本格的な回顧展です。

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2016.08.02

観てきた展覧会備忘録(2016年7月)

しりあがり寿の現代美術 回・転・展
会期 2016年7月3日 (日)〜9月4 日(日)
練馬区立美術館

石内都展 Frida is
会期 2016年6月28日(火)〜8月21日(日)
資生堂ギャラリー

声ノマ 全身詩人、吉増剛造展
会期 2016年6月7日~8月7日
東京国立近代美術館

近代風景~人と景色、そのまにまに~
奈良美智がえらぶMOMATコレクション

会期 2016年5月24日~11月13日
東京国立近代美術館


風刺画って面白い?

会期 2016年7月9日(土)~9月22日(木・祝)
町田市立国際版画美術館

小野忠重コレクション展 ―近代日本版画―
会期 2016年7月9日(土)~9月22日(木・祝)
町田市立国際版画美術館


開館10周年記念「妖怪がいた!ーここにも、そこにも、町田にもー」展
会期 2016年7月16日(土)~9月19日(月)
町田市民文学館ことばらんど



メアリー・カサット展

会期 2016年6月25日(土)~9月11日(日)
横浜美術館


「【開館50周年記念特別展】山種コレクション名品選Ⅰ 江戸絵画への視線 ―岩佐又兵衛から江戸琳派へ―」
会期 2016年7月2日(土)~8月21日(日)
山種美術館


オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展

会期 2016年4月27日(水)~8月22日(月)
国立新美術館



特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」

会期 2016年6月21日(火) ~ 2016年9月19日(月)
東京国立博物館

オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ
会期 2016年6月29日(水)~8月28日(日)
サントリー美術館


Ryu Itadani「Something Good」  (会期終了)
会期 2016年6月25日(土)〜7月10日(日)
ポーラミュージアムアネックス

ライアン・マッギンレー BODY LOUD !  (会期終了)
会期 2016年4月16日[土]〜 7月10日[日]
東京オペラシティ アートギャラリー

国吉康雄展  (会期終了)
会期  2016年6月3日(金)~7月10日(日)
そごう美術館



開館50周年記念美の祝典Ⅲ ―江戸絵画の華やぎ
 (会期終了) 
会期 2016年6月17日(金)~7月18日(月・祝)
出光美術品

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