小説 55歳からのハローライフ
時々、拙ブログに本の紹介を載せていますが、専用のブログを立ち上げるほどの読書家でもないし、と言うことで今回も突然の展覧会記事への割り込みです。
路に迷った暗闇にポッ、と灯った誘導灯の様な、そんな小説だと思いました。
この類の小説は男と女では評価が分かれるかもしれませんね。
書店で平積みになっていて、村上龍も久しぶりなので買って読んでみました。
タイトルも気になったし。
中編5部で構成されています。
以下に、概要です。
●結婚相談所
54歳で離婚した中米志津子は、安アパートに住みながらスーパーでマネキンさんをして生計を立てている。別れた夫からは頻繁にメールが入るが、返事をしたことはない。寂しいという訳ではないが結婚相談所に入会し、面会を繰り返すのだが・・・・・。
●空を飛ぶ夢をもう一度
因藤茂雄は54歳で小さな出版社をリストラされた。あれから四年後、ホームレスに転落する恐怖感を持っている。60歳近い彼に求人はなく、妻のアルバイト収入に助けられていたが、妻も解雇。茂雄は交通整理のアルバイトを始める。そしてある郊外の街で仕事中に、中学で同級だった転校生に声をかけられる。その彼の過酷な運命と向き合うことになるのだが・・・・。
●キャンピングカー
富裕太郎は58歳で早期退職制度に応募して退職、それなりの資産もあり中型のキャンピングカーを買って妻と旅行するというプランを実行に移そうとしていた。そして妻に打ち明ける。すると妻は申し訳なさそうに、経済的な不安と、仲間との付き合いもあってそんな時間は取れそうもないと話す。息子と娘に相談すると娘には「まだ若いんだから働けば」と言われてしまう。コネを足がかりに職探しをするが現実は想像していたほど甘くはなかった。そんな時、茂雄の体に異変が・・・・。
●ペットロス
高巻淑子は子どもの手が離れた53歳の時に反対する夫を説得して犬を飼うことにした。
ボビーと言う名前にした。
夫は、定年退職して、一日中ブログ等で、パソコンに向き合っているばかりで会話もない。
外面だけは良い夫のたち振る舞いも好きではなかった。
雪のある日、淑子は公園でボビーと散歩中に愛犬サリーと散歩していたデザイナーのヨシダさんと出会う。ヨシダさんは妻を癌で亡くしていた。淑子はヨシダさんと二人で合い、会話することがとても楽しい。そんな中6歳になるボビーに重篤な病が見つかる。
そしてボビーをめぐる夫婦の心の動きが・・・・。
●トラベルヘルパー
下総源一は、トラックの運転手をして生きてきた。バブル景気が弾けるまでは高収入をいいことに、毎晩のようにスナック通い、女の出入りも激しく預金などしてこなかった。
20歳代で結婚もしたが8ヶ月で別れた。
63歳になって、安アパートに棲みコンビニ弁当と安酒という生活。
辞めた会社から回してもらう仕事も月数件、貯金残高も50万円まで減っていた。
楽しみと言えば駅近くの古本屋で買ってきた本を読むこと。今までは本なんか読んだこともなかったのに・・。
その古本屋で松本清張の本を探していると、素敵な女性が入って来た。
下総は、心臓をバクバクさせながら思いきって声をかけると、すると意外にも応じてくれた。
郊外の街には気の利いたレストランもない。
ファミレスでランチをとっての逢瀬を繰り返した。源一にとって思いがけない幸せの時間だった。
ある日、堀切彩子から告白される。
教員をしていたが、夫が先物取引に失敗、返済の一部を負担するために夜の仕事をいていると、そして「もう会えません」と・・・。
堀切彩子とその夫は、実は・・・。
そして傷心の源一は旅に出た港でトラベルヘルパーと言う仕事を知って・・・・。
この小説には象徴的に飲み物が登場します。
飲み物を飲むという行為は心の高まりを抑えてくれる効果がありますよね。
アールゲレー紅茶
拘りの飲料水
自ら淹れたコーヒー
プ―アール茶
狭山茶(新茶)
「普通の人々」「信頼」を意識して執筆したと村上さんは記しています。
何れの物語も身につまされて、思わず涙でした。
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