田中慎弥著 小説 共喰い
毎年芥川賞受賞作は読んでいますが、今年はなにかと話題の田中慎弥さん。
同時受賞の円城塔さんが目立たなくなってしまい可哀想な気もします。
さて、この作品。
人物描写、場面設定とそのディテールもしっかり表現されていて、うまいなーという感じ。
読み進むうちに物語の進行が気になり、結末を読みたくなってしまう程。
この力量は十分評価されてしかるべきと思いましたがしかし、新鮮さ、発見と驚きがないのも事実。
何でもありの過多な情報の渦の中で、余程の作品でないと驚かなくなってきたこの頃、小説家も大変だな、と。
昭和六十三年の七月、十七歳の誕生日を迎えた篠垣遠馬はその日の授業が終わってから、自宅には戻らず、一つ上で別の高校に通う会田千種の家に直行した。といっても二人とも、川辺と呼ばれる同じ地域に住んでいて、家は歩いて三分も離れていない。
小説の導入部です。
海に注ぐ淀んだ川の川辺にある地方都市の街で、遠馬は父親円と継母琴子さんと住んでいる。
歩いてそう遠くない所の、川沿いに遠馬の生みの親仁子さんが魚屋を営んでいる。
仁子さんは、戦争中の空襲で右手首から先を失い、それが原因で縁談が駄目になってしまう。
そんな仁子さんは、祭りで知り合った円と結婚する。
円はセックスの時に暴力をふるうという癖がある。
たび重なる出来事に、仁子さんは我慢できず、元々住み込みで働いていた魚屋にもどったのだ。
遠馬は円が継母琴子さんとの交渉時にも暴力をふるう、そんな場面を二階から見下ろして知ってもいる。
遠馬は遠馬で千種と交渉を繰り返す日々をおくっている。
ある時、拒む千種の首を絞める格好になり、それから千種とは疎遠に・・・・
円は、飲み屋の客と琴子さんの関係を疑っている。
その琴子さんが円の子供を宿す。
しかし、何故か遠馬には、家を出ることをほのめかす。
仁子さんの魚屋の川むこうのアパートには円と関係があった女がいて、いつもアパートの角に腰かけている。
千種に会えないで悶々としている遠馬が、アパートの前を通りかかると、女が遠馬の手を引いて自分の部屋に・・・遠馬は交渉の中で暴力をふるってしまう、父と同じように、父の血なのだと・・・・
小高い丘の社では祭りの準備が始まっている。
子供が遠馬の家にやってきて、踊りを教えてくれと社に誘い出す。
そこには千種が待たされていた。
子供たちの計らいごとだった。
二人は言葉をかわす・・・・・
まもなく「あさってここで待っちょるけえ」と言って千種は帰る。
次の日は大雨になった。
琴子さんは「ほんなら、馬あ君」と家を出る。
琴子さんが家を出た翌日、昼になって酒臭い円が帰ってきた。
暫く遠馬と話をした後、「わしの子、持ち逃げしやがってから。」と下駄をはき、昨日からの大雨で水になった道へ駈け出して行く。
琴子さんはどこまで行ったのだろうか、これからどうなるのか・・・・・遠馬は不安に思う。
しばしの時間が経過し、走って玄関にかけ込んだ子供が、「馬あ君、お社、お社」「馬あ君のお父さんがあ。」「千種ちゃんがあ。」「ごめえん。止められなかったんよお。」
子供たちの叫びを聞いて、遠馬は社に向かって走り出す。
遠馬が社に着くと、動けなくなっている千種がそこにいた・・・・・
そして・・・・・
物語はエピソードを織り交ぜががら以上のような筋書きで進行します。
そして、そして・・・・・・そして、そして。
撰者の何方かが選評で、最後の一行はいらないと書いておられましたが、私もそう思いました。
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