「大穴牟知命」と石橋エイタロウ
画家の後裔(講談社文庫)
放浪三代 石橋エイタローから
母は毎年衣替えの頃になると、着物と一緒にその絵を虫干しした。 怖い絵だったとにかく怖い絵だった。 祖父がたえず気にかけながら、九州に帰っていくため父のもとに遺された作品「大穴牟知命」がこれである。だが、子供心には恐ろしいとしか感じなかった。 (中略) 夜中など頭のところに絵が頭のところに立てかけてあるので 頭からかぶった布団の中から覗くと(中略)小さな暗い電球の先に鈍く反射して、ますます背筋がぞくっとして、明るくなるまで、小ようにも行けなかった。 「眠れないからむこうに向けて」 と、母にせがんだり、新聞紙を覆せてもらって寝たのを思い出す。 この「大穴牟知命」との対面こそが、祖父と私のはじめての出逢いといえよう。
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