« 2011年5月 | トップページ | 2011年7月 »

2011.06.30

花の画家ルドゥーテ『美花選』展

Rudute0001tira
澁谷Bunkamura ザ・ミュージアムで7月3日まで開催。

美しいという言葉の意味の全てを包含しているのではないでしょうか、花は 。
そんなことを考えさせてくれる展覧会です。
物理的にも、社会環境的にも鬱陶しいこの頃、この展覧会の空間に入ると救われた気分になります。
私は、どちらかというと野に咲く楚々とした草花、倒れても倒れても、起き上がって花咲くコスモスなんかが好きなんですけど....この展覧会、薔薇の作品が良いですよ、勿論、他の花の作品もすばらしいのですが。
もし行かれたら、人につられて歩かないで、椅子に座って、ゆっくり、この空気を楽しんできてくださいね。

展覧会解説と会場レイアウト(解説はHPの引用です)

ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(1759~1840年)は、画家としての修業の後フランスへ行き、ルイ16世王妃マリー=アントワネットの蒐集室付素描画家の称号を得ます。フランス革命後、ナポレオン一世の皇帝妃ジョゼフィーヌなどの庇護のもと、宮廷画家として王侯貴族や上流階級の人々に「花のラファエロ」あるいは「バラの画家」と称えられる植物画家の巨匠として名声と人気を集めました。生涯にわたり植物画を描き続けたルドゥーテは、植物学的正確さを踏まえながらも芸術性を備えた花の姿を描き、その華麗な作品は今なお世界中の人々に愛され親しまれています。 Bunkamura ザ・ミュージアムでは3度目のルドゥーテ展となる今回は、ルドゥーテの版画作品ベスト版ともいえる最晩年の傑作集である『美花選』全144作品を中心にご紹介いたします。

Rudutekousei
・『美花選』に至る道
・『美花選』-最も美しい花々
  早春の可憐な花
  ヨーロッパの花々-アルプスから地中海まで-
  庭の新しい仲間たちー遠方からの導入種
・「バラの画家」ルドゥーテ
  初夏の庭-バラの花園
  『バラ図譜』
  東洋への憧れ
  美しき実り-果物の肖像
・探検航海と植物
・エキゾチックな植物
・特別出品『バンクス花譜』
・ブーケの魅力
・ベラムに描かれた水彩画
・花言葉 

会場内の特別演出も雰囲気を盛り上げています。
・バラの香り
パフューマリー・ケミストの蓬田勝之氏によるバラの香りの演出をいたします。情熱的かつ洗練された香りの「ダマスク・モダン」と、さわやかで優雅な香り「ティー」の2種類が会場を包みます。

・バラのドレス特別展示
ビーズ刺繍デザイナーの田川啓二氏のドレスを特別展示。

・展示会場演出
デザイナーの吉谷博光氏が「女性のための城」マルメゾン宮殿の室内からインスピレーションを受け、ルドゥーテ作品のためのサロンを美しく演出。

・花言葉
美輪明宏氏の著書『花言葉』より、花と美にまつわる言葉のご紹介。

という事で、薔薇を描いた作品を以下に紹介します(図録からです)
Rudute0002


Rudute0003


Rudute0005


Rudute0006


Rudute0008

Rudute0010


Rudute0011


Rudute0012


Rudute0013


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.28

魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展

Fukiyatirasi
そごう横浜店6階のそごう美術館で7月18日まで開催。 


童謡「花嫁人形」は、語感が良くて忘れられない詩ですよね。
蕗谷虹児の代表作でもありますね。

きんらんどんすの 帯しめながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ

文金島田に 髪結いながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ

あねさんごっこの 花嫁人形は
赤い鹿の子の 振袖着てる

泣けば鹿の子の たもとがきれる
涙で鹿の子の 赤い紅にじむ

泣くに泣かれぬ 花嫁人形は
赤い鹿の子の 千代紙衣装

Fukiya0001hanayome
花嫁(部分)1969年

蕗谷虹児は明治31年に生まれ、大正・昭和に亘って活躍しました。
二度にわたる世界大戦、関東大震災、あらゆる意味で濃密な時代ですよね。
二十代後半で亡くなった美人の母、その面影を引きずって....作品に反映されているのかもしれません。

新潟県新発田市に生まれ母の死後、蕗谷は丁稚奉公しながら夜学に通います。
そして、14歳で上京日本画家の尾竹竹坡に師事して日本画を学びます。
展覧会はその頃の作品展示から始まります。
その後、新聞記者の父の元、樺太で二年程度放浪画家生活を送り帰郷、上京し、日米図案社に入社、図案家としてデザインの修行します。そこで竹久夢二の目にとまり、雑誌『少女画報』主筆の水谷まさるを紹介され、蕗谷虹児の筆名で挿絵画家としてデビューします。翌年朝日新聞に連載の吉屋信子の長編小説『海の極みまで』の挿絵に大抜擢され、時代の寵児となります。
大正13年に、『令女界』に発表した詩画「花嫁人形」が冒頭の詩です。
後に杉山長谷夫の作曲で童謡になりました。

やがて、挿絵画家ではなくタブローの画家として制作したいという思いを捨て切れず1925年パリに向かいます。
藤田嗣治、東郷青児らと交流しながら、サロンでの入選を果たすようになるが、留守宅の経済逼迫で4年で日本に戻ります。日本に戻った蕗谷は借金返済のため、挿絵画家とした再活動、当時のパリファッション、空気を描き込んだ作品は女性の憧れの的になります。

やがて時代は、戦争へとのめり込んでいきます、蕗谷の描く世界は世相に合わず一時制作を辞めます。

終戦後は、復興された各誌に執筆を再開、多数の絵本の挿絵で子供に親しまれました。
また、「東映動画スタジオ」の設立に参加し、アニメーション映画『夢見童子』の原画・構成を担当しました。
会場ではその作品が放映されています。
三島由紀夫他、多数の作家の書籍挿絵装丁も行っており、こちらの展示もあります。

自らの絵を「抒情画」と名付けた蕗谷虹児の展覧会
大正浪漫、アール・ヌーボーやアール・デコ、表現主義などから影響を背景に感じながらノスタルジックな展覧会です。
女性の観客が多いのですけれど.....おじさんでも勿論楽しめますよ(と思いますよ)


Fukiya0001suiren
睡蓮の夢 1924年

Fukiya0001tersu
テラスの秋 1924年

Fukiya0001siokaze
潮風 1928年

Fukiya0001tabie
旅の絵便り 出帆 1926年

Fukiya0001hinagesi
ひなげし 1936年

Fukiya0001bara_2
薔薇と少女 1968年

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2011.06.27

スカイプラネタリュ-ムⅡ

Pura0001
森アーツセンターギャラリーで6月26日まで開催されていました。(終了しています

このところの梅雨空は鬱陶しいですね。
星空で気分転換です。
最終日(26日で終了しています)という事で、出かけてみました。
他にも観に行きたいプラネタリウムがあるので其の内と思っているのですが。

総合プロテューサーでプラネタリウム・クリエイターの大平 貴之氏のメッセージを以下に

会場には、身近な東京の夜空から137億光年彼方の宇宙の果てまで、いろんなスケールの星空が現れます。ぜひ、いろんな視点で観てください。一人でじっくり宇宙と対峙すれば、その神秘に心奪われることでしょう。カップルで星座を探せば、二人の距離が縮まったり、家族で来れば、意外にお父さんが星に詳しくてびっくりしたり、逆に子どもに教えられたり。ちょっと仲良くなれるかも。一つひとつの星の輝きを大切にした『スカイ プラネタリウムII』が、一人ひとりにとってかけがえのない思い出になれば、幸いです。


会場構成です。
[1]TOKYO STARRY NIGHT(東京スターリーナイト)
六本木ヒルズ森タワー屋上から宇宙へ出発
六本木ヒルズ上空の星空がギャラリーに出現します。
1

[2] 3D SKY WALK(3Dスカイウォーク)
世界でここにしかないプラネタリウム「一千光年の宇宙トンネル」
最新のデータをもとに太陽系を中心とする一千光年の宇宙空間を3次元のまま再現。
Pura0002ton

[3] UNIVIEW THEATER(ユニビューシアター)
宇宙空間シミュレーターで体験する「137億光年宇宙の旅」

[4]MEGASTAR(メガスター)
大平貴之が贈る 満天の星空の癒し空間
メガスターは、肉眼では捉えられない微かな星の光も再現するスーパープラネタリウムです。その投影星数は従来のプラネタリウムの100倍以上。

とても楽しかったですよ。
その後、美術館で、フレンチウィンドウ展(2回目)と展望台へぶらぶらと。

もやにかすんだ眺望も良いかと....

おまけ。
別に高いところが好きというわけではないのですけれど.....
損保ジャパン東郷青児美術館からの眺望。
(損保ジャパン本社ビル42階)
手持ちで目いっぱいズームアップしてますので見ずらいと思いますが。


出光美術館休憩所からの眺め。(丸の内帝劇ビル9階)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.25

フジフィルム スクエア企画展 想像より、面白い。ハワイ 自然写真家 高砂淳二が伝えるハワイ

Takasagohawai_2
東京ミッドタウンのフジフィルム スクエアで6月29日まで開催。

この類の写真展、この時期多いですよね。
高砂淳二の写真展もよく見ます。
今回は、サントリー美術館の帰りに行ってきました。

良い写真がいっぱいですよ。
ツアーで行くハワイも良いけど、こういうハワイを見せられちゃうとねー。
長期間は無理だしなー。

画像はパンフレットからです。
Takasagohawai0001kani


Takasagohawai0001ki

Takasagohawai0001niji_2


Takasagohawai0001ba


Takasagohawai0003


Takasagohawai0003iruka


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.24

ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー

Honma
東京オペラシティーギャラリーで6月26日まで開催。

圧倒的なイメージとして直感的に、何かを、与えてくれる(感じさせてくれる)と期待して観にいくとがっかりするかもしれませんよ。
淡々と撮られた、画面から醸成される空気、その中に何かハッとするもの、発見があればそれでいいのかもしれません。
ホンマタカシノ仕事に対するスタンス、全仕事の一部としてこの展覧会を見ないといけないのかもしれません。
なかなか、そこまではできかねますけど....。
感情をあるいは情緒的意図を排除したリアルなその瞬間現場を映す、伝えるという事なのでしょうか....

以下は、この展覧会イントロダクションからの引用です。

ホンマタカシは、現代の写真表現において第一線で活躍し、国際的に注目されている日本人写真家の一人です。対象との独特な距離感や冷めた色合い、感情を持ち込むことを避けたクールな視線を特徴とするホンマの写真はこれまでも高い評価を受けてきました。80年代後半から広告やファッション誌を舞台に活動し始めたホンマは、90年代初めにロンドンへ渡り、先鋭的なカルチャー誌『i-D』で仕事をしながら、様々な方法で写真を制作する可能性に触れていきます。帰国後も雑誌メディアを中心に活動を続けながら、自身の作品をさまざまなシリーズにまとめ、99年には東京の郊外風景と人々を撮った写真集『東京郊外』で、木村伊兵衛写真賞を受賞。現在に至るまで、続く世代の写真家たちを牽引する作品を国内外で発表し続けています。

展示作品は以下の通り。
(解説はHPから一部引用です。)

・Tokyo and My Daughter
ホンマ自身が娘の成長を記録した家族アルバムを思わせるタイトルだが、実際は異なる。少女はホンマの子供ではないし、さらに少女の家族が撮った写真(いわゆるファウンド・フォト found photo=見いだされた写真)の複写も混じり込んでいる
Photo


・Widows
Honma0001siro
《Widows》より

イタリアのジェノヴァの東30キロの町ラパッロに住む11人の未亡人、その住まいの中や周辺、さらに彼女たちのアルバムからとられた古いスナップ写真の複写からなるシリーズ。

・re-construction
写真を発表する場として、雑誌や広告を積極的かつ意識的に重視してきたホンマが、それらの写真をみずから再撮影、再編集して本の体裁にまとめた新作


・M
各地で撮影を続けてきたファーストフード店の写真をシルクスクリーンにした新作。

Honmamac

・Together: Wildlife Corridors in Los Angeles
ホンマは映像作家のマイク・ミルズとともに、ロサンゼルス近郊の野生動物の生態を調査するプロジェクトを2006年に開始した。ハイウェイの通る荒涼とした風景がつづくが、個々の撮影は、生態観測のためのレンジャーが野生のマウンテンライオンに取り付けたGPS発信器のデータにもとづき、実際にマウンテンライオンが通った場所で行われている。

・Trails
北海道の知床の地で鹿狩りに随行し、その狩りにまつわる場面を撮影したという作品(ただただ、同様の写真が並べられている。同シリーズのドローイングも展示。
Honma0001

・Short Hope (a portrait)
敬愛する写真家・中平卓馬へのオマージュ?中平がタバコに火をつける様子をとらえた短い映像が反復される。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.23

花菖蒲11.6

二十四節季では夏至、急に暑くなった印象。
花菖蒲が花盛りです。

立つがあり揺るるがありて花菖蒲  高浜虚子                     

はなびらの垂れて静かや花菖蒲  阿部ひろし

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.22

トリック映画の前衛 カレル・ゼマン展

この展覧会は、チョット時間の余裕を持って行った方が良いかもしれません。

まず、予備知識を松濤美術館のHP解説から。

カレル・ゼマン(Karel Zeman 1910-1989)は、人形アニメーションや絵本で人気の高いイジー・トゥルンカ(1912-1969)と並ぶチェコ・アニメーションを創設した、代表的作家のひとりです。ゼマンは第二次世界大戦中、チェコ・アニメーションの発祥地・ズリーンを拠点に制作を開始しました。そして、ジュール・ヴェルヌの原作をもとに、銅版画から着想した斬新な映像を展開した『悪魔の発明』をはじめ、切り紙やガラスなどを使いさまざまな工夫をこらした映像を作り出し、トリック映画の巨匠となったのです。
本展は、ゼマンの創作活動の全容をたどろうとする、日本で初めての回顧展です。ご遺族が所有されている映画の原画や使用された人形とともに、制作過程の一端を知ることができる貴重な資料や絵コンテなどを展示いたします。

展示会場では、作品の上映もあります、というよりこちらがメインかもしれませんよ、地下1階展示会場では、短編の立ち見。2階ロビーでは長編の上映が行われています。こちらは椅子席もあるのですが、松濤美術館行った事のある方はご存知と思いますがあまり広くありません。私が行った日は座ってゆっくり見る事が出来ましたが、少しでも混んでくると、立ち見になるでしょうね。座れても前の方と重なってしまうと、見づらいですよ。
 私は、地下一階の短編、2階展示会場の短編そして14:30からの『長編「悪魔の発明」1958年 特撮アニメーション カラー 81分』を見てきました。面白かったですよ。全部見るとなると半日がかりですからね、他の美術館との掛け持ちはキツイかもしれませんね。
懐かしさと、何故か新鮮さとがないまぜになって、良いですよこの企画展、時間が許せば、混まなければ『長編「ホンジークとマジェンカ」1980年 切り紙アニメーション カラー 67分』を観にもう一度行こうかな、と思っています。


上映作品は以下です。(必ずHPでも確認してくださいね)
地下1階展示会場(毎日上映)
短編「クリスマスの夢」(11分)1945年
「プロコウク氏 映画製作の巻」(8分)1947-59年
長編抜粋「悪魔の発明」(5分程度)

2階ロビー
(美術映画会開催日はいずれか1本の上映)
12:30~長編「ホンジークとマジェンカ」1980年 切り紙アニメーション カラー 67分
14:30~長編「悪魔の発明」1958年 特撮アニメーション カラー 81分

以下の画像はチラシからです。
Zeiman0001honnjiku
「鳥の島の財宝」人形 1952年

Zeiman0001
「ホンジークとマジェンカ」撮影素材 1980年

Zeiman00013


Zeiman0001hon
「ホンジークとマジェンカ」撮影素材 1980年

Zeiman
澁谷区立松濤美術館で7月24日まで開催。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2011.06.21

映画(DVD) 日の名残り

カズオ・イシグロの小説「日の名残り」の映画化作品。

ほぼ小説の筋書き通りに映像化されています。(筋書き概要は前投稿で)
ただし、ダーリントン・ホールの新しい主人が、ファラデー氏ではなく、小説の筋書きに大きな意味を持たせている会議。あの会議後晩餐で、ダーリントン卿とその会議の内容を批判したルイス下院議員に変わっています。
この辺は、何か監督に意図があっての変更なのでしょうか。
そして、ラストシーンはホテルで話をした後のミセス・ベンをバス停まで送って行って、別れるところで終わっています。何か、淡い思慕への永遠の決別を意識したような.....。

ミセス・ベン役のエマ・トンプソンはキャスティングとしては納得、スティーブンス役にアンソニーホプキンスを持ってきたのは半分納得、半分は個性が強すぎるかな―という感じ。
私がもっと期待していたのが、イギリス映画に度々登場する、広大な美しい景色とダーリントン・ホールでの回想シーンが上手く交互に映像化されていたら素晴らしいのに.....景色がほとんど映されていないのが残念。
少々、ストーリーが散漫になってしまった印象、良い映画ではありますが....。


41piyecshl__sl500_aa300_
原題: THE REMAINS OF THE DAY
製作年度: 1993年
上映時間: 134分

スタッフ
監督  ジェームズ・アイヴォリー
製作総指揮  ポール・ブラッドレイ
製作  マイク・ニコルズ  ジョン・コーリー  イスマイール・マーチャント
脚本  ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ
原作  カズオ・イシグロ
字幕  戸田奈津子


キャスト(役名)
アンソニー・ホプキンス (スティーブンス)
エマ・トンプソン (ミス・ケントン)
ジェームズ・フォックス (ダーリントン卿)
クリストファー・リーヴ (ルイス)


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.20

カズオ・イシグロ著 日の名残り

この様な本にめぐり会えると、何処にも行かないで、読書三昧という生活も良いかな...なんて思ってしまいます。丹念に書き込まれていく人物、情景描写の巧みさに感心しているうちに、筋書きに興味深々。

本書のプロローグ、書き出し部分です。
一九五六年七月
ダーリントン・ホールにて

ここ数日来、頭から離れなかった旅行の件が、どうやら、しだいに現実のものになっていくようです。ファラデー様のあの立派なフォードをお借りして、私が一人旅をする.....もし実現すれば、私はイギリスで最もすばらしい田園風景の中を西へ向かい、ひょっとしたら五、六日も、ダーリントン・ホールを離れることになるかもしれません。

スティーブンスは、ダーリントン・ホールで人生のすべてを執事という仕事に捧げてきた自他ともに認める一流の執事。新しい主人ファラデー様は八月九月、五週間ほどアメリカに帰ってくることになっている、この旅はファラデー様のご厚意によるもの。物語は、その六日間の旅の中でのの出来事と、ダーリントン・ホールでの出来事の回想で構成されている。
一日目 夜  ソールズベリーにて
二日目 朝  ソールズベリーにて
二日目 午後 ドーセット州モーティマーズ・ポンドにて
三日目 朝  サマセット州トーントンにて
三日目 夜  デポン州タビストック近くのモスクムにて 
四日目 午後 コーンヲール州リトル・コンプトンにて
六日目 夜  ウェイマスにて

前の主人ダーリントン卿のが失意のうちに亡くなり、親族の誰も彼の屋敷ダーリントン・ホールを受け継ごうとしなかった。スティーブンスのスタッフも辞めていき深刻な人手不足になる中、アメリカ人の富豪ファラディ氏が買い取ったのだった。そんな中、かつて女中頭を勤めていたミセス・ベン(旧姓ミス・ケントン)から手紙が届く。
結婚生活が上手くいっていないようなのだ.....スティーブンスは職場復帰してくれると嬉しいと思う。
そして旅の最後にミセス・ベンに会う事にしている。ダーリントン・ホールを切り盛りしてきた二人は、淡い思いを持ていた。

物語は1956年の「現在」と1920年代から1930年代にかけての回想シーンを往復しつつ進められる。

第一次世界大戦後、スティーブンスが心から敬愛する主人・ダーリントン卿は、再び過去の戦争による惨禍を見ることがないように、ドイツに過酷なヴェルサイユ条約に反対の立場をとり秘密の会合を繰り返していた。ドイツ政府とフランス政府・イギリス政府を宥和させるべく奔走していたのだが、会合後の会食の席でアメリカ政府関係者からは「アマチュア的発想で、危険だ。プロに任せるべきだと」批判を受ける。実際、ダーリントン卿はナチス・ドイツによる対イギリス工作に巻き込まれていく。
忠実な執事であるスティーブンスは、疑いを持たず?ただ只管、身を粉にして働き続ける、そんなスティーブンスと女中頭ミス・ケントンは、いがみ合うこともしばしば、そして当てつけるように、ミスター・ベンと結婚して辞めてしまう。

ダーリントン・ホールでの過去の出来事が、六日間の旅の中、接する人々との会話から、回想されていく。

そして旅の終わりに、スティーブンスはミセス・ベンと再会をする。
「決して、幸せな結婚ではなかったけれど、娘に初孫が生まれ、ベンとの生活に幸せを見つけられる様になった」といわれ、ミセス・ベンの職場復帰もなくなる。

ミセス・ベンと別れ、夕暮れ時、とある桟橋で偶然出会った、執事のもとで働いた経験のあるという男と話すうちに涙がこぼれてくる。その涙の意味は......
ダーリントンホテルに戻る時が来た。
心新たに、悩みの一つであったジョーク、アメリカ人であるファラディ様を笑わせるようなジョークを練習しよう、と。

Hinonagori
日の名残り
著者 カズオ・イシグロ
訳者 土屋政雄
ハヤカワepi文庫
2001年5月31日発行
2011年5月10日15刷り 


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.18

デヴィット・デュビレ写真展

Akuatirasi
コニカ・ミノルタプラザで6月20日まで開催されています。

40年のキャリアにおいて、微細なプランクトンから巨大な捕食者まで、水の中で繰り広げられる壮大な生命のドラマを追い続けてきたデヴィット・デュビレの展覧会です。
鬱陶しいこの季節、新宿の雑踏から、この写真展に足を踏み入れるととても良い空間が出現します。
新宿に行ったら是非!
次回、7月1日からは常連?の長倉洋海写真展 北の島・南の島です。
こちらも楽しみに待ちます。

画像はいずれもパンフレットからです。
Akua0001aka


Akua0001kame


Akua0001siro


Akua0001utu


Akua0003sina
100年後にも残したい!みんなの海(コニカミノルタプラザ環境企画展)が同時開催されています。

実物大のマンタを見よう!という事でワイドスクリーンで海中撮影映像が流れています。
こちらも、楽しいですよ。
更に、吉澤ひとみさんが石垣島の海に、品川祐さんがパラオの海に潜った映像が放映されています。
その他、サンゴの赤ちゃんに会いに行こう!よみがえれ東北の海!というコーナーも設けられていますよ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.16

幕末・明治の寫眞師 内田九一展

Utidapanfu


東京ミッドタウンのFUJIFILM SQUAREの写真博物館で三部(三期)に分けて開催されています。
日程は次の通りです。私は、国立新美術館に行ったついでに第2部肖像編を見てきました。

第1部 風景編Ⅰ:関東の風景を中心に展示予定(4月28日まで)既に終了。
第2部 肖像編 :幕末・明治に活躍した著名人などを展示(6月30日まで開催中)
第3部 風景編Ⅱ:西国・九州巡幸を中心とした、西日本の風景を展示予定(7月1日~8月31日まで開催)

ミニ展示ですから、わざわざ出かける程とは思いませんが、通りかかったら、チョット入ってみると良いかもしれませんよ。
殆どの方が記憶にある写真だと思いますが、あらためて見ると感慨深いものがありますよね。
幕末好きの方、楽しめますよ。


以下は、HP解説からの引用です。(画像はパンフレットからです)

幕末・明治の寫眞師、内田九一(1844~1875年)は、明治天皇の「御真影」を初めて撮影した寫眞師として、また、幕末から明治初期において旧徳川幕府・明治維新の志士や高官、著名人、さらに、当時の東京をはじめとする日本各地の風景を撮影して後世に残し、日本の写真黎明期にその名を燦然と輝かせる寫眞師です。
第2部では、明治天皇の「御真影」をはじめ、勝海舟や五代目尾上菊五郎などの幕末・明治に活躍した著名人の肖像写真、30点(予定)を展示いたします。
 「東都随一」と称され、かつて日本でもっとも著名な寫眞師と言われた内田九一が撮影した歴史写真の、芸術性をお楽しみいただけるとともに、写真の優れた歴史資料的価値をご覧いただけます。

Utidameiji
明治天皇 1873年(明治6年)

Utida0001katu
勝安芳(海舟) 1870年(明治3年)

Utida0001kokugoro
五代目 尾上菊五郎 1868~75年(明治元年~8年)頃

Utida0001ainu
アイヌの男たち 1872年(明治5年)頃


 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.15

華麗なる日本の輸出工芸 世界を驚かせた精美の技

Tabasio
たばこと塩の博物館で、7月3日まで開催されています。

この企画展面白かった?ですよ。
この類の企画は過去にもありますが、私の感覚ではチョット趣が違うような気もしました。
横浜焼と称された真葛焼、象牙や貝を素材とした芝山細工、大がかりな寄木細工の家具等は、私は初めてみると思います。
有田焼や薩摩焼といった有名輸出陶磁器は過去にも沢山見てきましたが、これらの輸出用作品(製品)、何時も思うのですが、日本の家屋には...どうなんでしょう(当たり前かあー)。受け入れ側の要求で作られたものなのでしょうが、正直に言って違和感がつきまといます。
それにしても、この技術力には驚嘆しますよね、澁谷に行ったら(原宿に行ったら)寄ってみてください、いろいろな意味で楽しめると思いますよ。

以下は、HP(リニューアルされ、とても良くなっています)からの引用です。
リニューアルされたHPはこちら

明治維新を迎えた日本は外貨獲得の手段の一つとして、さまざまな工芸品を海外に輸出しました。代表的なものとしては、象牙や貝を素材とした芝山細工と呼ばれる工芸品や寄木細工などの木工品、有田焼や薩摩焼といった有名な陶磁器のほか横浜焼と称された真葛焼、駿河・会津などの漆工品があります。
これらの輸出を目的とした工芸品は、横浜港を中心に明治から昭和初期にかけて大量に輸出されましたが、とくに明治時代の初期から中期にかけて欧米諸国に輸出された精巧で優美な工芸品の数々は各国で大変な人気を呼び、ジャポニズムという文化的流行を引き起こすきっかけにもなりました。
本展示では、日本輸出工芸研究会会長の金子皓彦氏が数十年に渡り国内外で収集した輸出工芸品の中から、とくに優れた作品約200点を選び、当時の日本の工芸技術の粋と精緻な意匠の世界をご紹介します。

Tabasio0001siba
芝山細工 桜に雉図衝立 明治時代

Tabasio0001yosegi
寄木細工引き出し 明治時代


Mugiwara
麦わら細工シガー&シガレットケース 明治時代

Jinnkazura
真葛焼獅子図花瓶」 明治〜大正時代

Tabasio0001tubo
横浜絵付薩摩焼人物図大花瓶 明治時代

画像はチラシからです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.13

ワシントン ナショナル・ギャラリー展

この展覧会のコピーが凄いですよね。
印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション
これを見ずに、印象派は語れない。

こいう展覧会は早めに行かないとと思って....
まあ、期待度が高いですから、展覧会場出口で、「これで終わり?」なんてお話していた方々もおられました。
展示会場は、作品と作品の間が広くとってあって、ゆったり鑑賞い出来ます。
私が観に行った日は、空いていてゆっくり、じっくり鑑賞できました、勿論幸せな時間でした。

夫々のコーナー解説も、美術の教科書みたいで、学生さんの団体(最近多いような気がするのですが)には、予習復習になって良いかもしれませんね。
勿論、視覚的にも、歴史的転換期の作品が、かえって展示作品点数が少なく、厳選されているせいか、「なるほどなるほど」とすんなりと頭に入ってきます。
私は何時も、展覧会場を最初から最後までざっと見て、先ず何処を、何を重点的に観るかを決めて、それから目的のコーナー、あるいは作品分類毎に観る....という鑑賞方法をとるのですが。
今回は、ポスト印象派以降の展示室に入って、先ず眼に着いたのが《セザンヌ》の赤いチョッキの青年です、更にゴッホの自画像、静物《薔薇》です。
Wasinntonn_0002bara
フィンセント・ファン・ゴッホ《薔薇》

風景画、静物画も秀品ばかりで、楽しかったですが、今回は人物画を比較鑑賞するのも面白いかなと....
矢張り、夫々の作家の個性が顕著で面白かったですよ。
時代背景と、作家夫々のの思いが作品に見事に現れているんですよね。
皆さんは、どの様に感じるでしょうか?
夫々ですよね、感性は個々人のものですからね.....。
今度もう一度観に行ったら、感想が変わっているかもしれません、私自身も....

以下に展示会場の構成と、あえて人物画?に拘って紹介してみます。
Wasinntonnmap

印象派登場まで
Wasinntonn_0002opera
エドゥワール・マネ《オペラ座の仮面舞踏会》

Wasinntonn_0002mone
クロード・モネ《日傘の女性、モネ夫人と息子》

Puramu
エドゥワール・マネ《プラム酒》

印象派
Pisaro
カミーユ・ピサロ《麦わら帽をかぶる農家の少女》

Wasinntonn_0003runo
ピエール・オーギュスト・ルノアール《踊り子》

Mugiwara
メアリー・カサット《麦わら帽子の子ども》

紙の上の印象派
Wasinntonn_0003roto
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《アンバサドゥールの粋な人》

ポスト印象派以降
Wasinntonn_0003titi
ポール・セザンヌ《『レヴェヌマン』紙を読む画家の父》

Wasinntonn_0003aka
ポール・セザンヌ《赤いチョッキの少年》

Gogyan
ポール・ゴーギャン《ブルターニュの踊る少女たち、ボン・タヴェン》

Goho
フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》


Wasinntonn_0001tirasi
国立新美術館で9月5日まで開催されたいます。
約3ヶ月やってますから、もう一度くらい観に行きたいですよね。


| | コメント (0) | トラックバック (3)

2011.06.12

ムットーニワールド からくりシアターⅡ

Mutoni0001tirasi


2009年に開催されて好評を得た、ムットーニワールド からくりシアターの続編です。
残念ながら前回は拝見できなかったので、今回は楽しみにして行ってきました。
八王子夢美術館で6月26日まで開催。

最初の会場は、2011年新作品の「『エッジ オブ リング』ウィング エレメントより」です。
5つのエレメントが単独でその後、同時に、光と音楽とともに人形が動き物語を紡ぎだしていきます。
地上に爪先立つ個々の、五体の天使がゆっくりと上昇し、光のリングからも離れていく、一瞬あって下降が始まり、そして元の状態に戻る、やがて、5体が同時に動きだすという、生と死、天と地を巡る演出になっている。

Mutoni0002ejji


展示会場は大枠で5箇所に分かれます。
次の会場からは、作品毎に順次個々のからくり人形が動き始めます。それに伴って、観客が団子状態になって移動します。音楽の選曲もポピュラー、ジャズ、ラテン、シャンソンそして聖歌ありで、私の世代にとってはもう楽しくて楽しくて....それに伴って、人形と光が連動していきます。
この演出がまた見事です。

Mutoni0002eru
《エル サルサ ディディアノーチェ》


Mutoni0002nemuri
《眠り》
小品ですが、眠りにまつわる語りと、人形そして鏡に映る姿の不思議ワールド、面白い!


Mutoni0001supesu
《アローン ランデブー》


これらの作品の説明は活字でも、静止画像でもチョット伝わりません、難しいですね。
こればかりは、出向いて実際に見ないとですよね。
どの作品とは言いません、全作品が楽しいと言っても過言ではありません。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.11

雨のふる日はあはれなり良寛坊

雨のふる日はあはれなり良寛坊
良寛さんの詩は、楽しいですよね。
良寛さんは雨の日、どの様にして過ごしたのでしょうね?
托鉢のときに雨に降られて、哀れなり良寛坊なのでしょうか。
五合庵で、独り、毛もまばらな筆をとってでしょうか、晴れたら麓の村で、子供とまりつきを……なんて考えていたんですかね。


私も雨の日は鬱陶しい....でもゴム長履いて、チョット電車でも、車でも乗ってこんなところで散歩。
良いですよ、雨音を聴きながら、雨だれが腕に当たったり、歩くうちにすっきりした気持ちになって。
雨の日、おっくうでも私は、エイヤッと外に出ます。
いつもと違う景色の中を歩くのはとても楽しいですよ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011.06.09

パウル・クレー おわらないアトリエ

Kure
東京国立近代美術館で7月31日まで開催

展覧会の構成です。
・現在/進行形 アトリエの中の作品たち
・プロセス1 写して/塗って/写して  油彩転写の作品
・プロセス2 切って/回して/貼って  切断・再構成の作品
・プロセス3 切って/分けて/貼って  切断・分離の作品
・プロセス4 おもて/うら/おもて    両面の作品
・過去/進行形 ”特別クラス”の作品たち

パウル・クレーの企画展はよく開かれてきましたが、この展示構成はチョット特徴的ですよね。
会場レイアウトも幕張あたりで開かれる製品展示会場みたい?
この企画展のコンセプトをしっかり認識して観に行かないと、物理的にも、思考的にも迷路の中に.....
Kuretizu

という事で、展覧会の趣旨を、HPから引用させて頂きます。

スイス生まれの画家パウル・クレー(Paul Klee, 1879-1940)は、長らく日本の人々に愛され、これまでにも数多くの展覧会が開催されてきました。それらの展覧会では作品の物語性や制作上の理念が詩情豊かに詠われ、多くの人々にクレーの芸術の魅力を伝える役割をはたしました。

国立近代美術館で初となる今回のクレー展では、今までの展覧会成果を踏まえた上で、これまでクローズアップされてこなかった「クレーの作品は物理的にどのように作られたのか」という点にさまざまな角度から迫ります。この観点から作品を見てみるならば、視覚的な魅力を体感できるのみならず、その魅力がいかなる技術に支えられているのか、ということまでもが明らかになるでしょう。

クレーは1911年から終生、制作した作品の詳細なリストを作り続けます。1883年、画家4歳のときの作品を手始めに、約9600点もの作品からなるこのリストには、作品のタイトルのみならず、制作年と作品番号、そして使用した材料や技法などがこと細かに記されています。「何を使い、どのように作ったのか」ということは、この画家にとってきわめて重要な関心事だったのです。
その「制作プロセス」を、クレーは、アトリエ写真というかたちで記録に留めたり、自ら「特別クラス(Sonderklasse)」と分類した作品を模範作として手元に置いたりしながら、生涯にわたって検証し続けました。 具体的な「技法」と、その技法が探究される場である「アトリエ」に焦点を絞り、クレーの芸術の創造的な制作過程を明らかにしようする本展において、鑑賞者は、ちょうど画家の肩越しに制作を垣間見るような、生々しい創造の現場に立ち会うことになるでしょう。

スイスのパウル・クレー・センターが所蔵する作品を中心に、ヨーロッパ・アメリカ・国内所蔵の日本初公開作品を数多く含む約170点で構成されます。

まあ、素人からすると、何故クレーはこのような技法の変遷を辿って、何を得て、何処に到達したのか?
なっとく、なっとくというわけには、なかなか.....ですが、ただ単に作品から伝わるユーモアとか、色彩の妙味、線描のの面白さを感じるだけでも楽しいですし、さらに加えて、技術的な裏付けがチョットでも「あーなるほど」と思えればそれで十分かと。

バウハウス・青騎士(特に、カンデンスキー、マルク)という背景を考え併せる事も良いかもしれませんね。
以下はクレーの日記からです。

「私にくらべればマルクははるかに人間味に溢れていた。むしろ人間くさい、といったらいいであろうか。彼の愛は、私の愛よりあたたかだった。ひたむきな愛であった。動物をも、人間と同じように愛した。動物を人間の位置にまで高め、人間に対するものと同じような愛をそそぐのだった。マルクによれば、万物を包む宇宙よりも、この地上ーーーーこの世のものがはるかにに大切だったのだ。しかし、このクレーは、神の許にのみ、己の住家を求める.....」

サルトルはクレーのことを「この世の驚異を再製造する天使」と規定したそうですが、さて皆さんはこの展覧会でどんな発見をするでしょうか、私も少しづつ頭の中を整理してみます。
(高階費秀爾著 近代絵画史(下)を参考にしました。)


Kurejiga
思索する芸術家1919,71

Kurekitamori0001
北の森の神1922,32

Kurega
蛾の踊り1923.124

Kurejyousyou
上昇1925,90

  

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2011.06.08

ラファエル前派からウィリアム・モリスへ展

いつの時代も同じなのでしょうが、現状を変えたい、乗り越えたいという若いアーティストの意欲が連綿と続き、その歴史を作ってきたんですよね。
時代はビクトリア朝、産業革命後の19世紀中頃、物質的な豊かさの中で、現状の古典主義教育への不満、初期ルネッサンスの精神性への憧憬から、ロイヤルアカデミー美術学校の学生ハント、ミレイ、ロセッティなどが個人的な結社を作った。(ラファエル前派)後のに批評家、彫刻家が参加していく。
後期になるとロセッティを慕ってエドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリスらが参加してくる。
という事で、この企画展のタイトル「ラファエル前派からウィリアム・モリスへ展」になる訳です。
日本の美術界、文学界も刺激し青木繁の作品にもその影響がみられると考える向きもあるようです。

油彩、水彩、ドローイング、ステンドグラス、陶器、家具など約100点で構成されているこの企画展、私は満足でした。まとまりが良くて、この美術館のスペースをよく考えて構成されていると思いました。

Rafaeruzennparose
ダンテ・ゲイブリアル・ロセッティ《マリゴールド》

Millais_waking01
ジョン・エヴァレット・ミレー《めざめ》
昨年でしたか、bunkamuraで展覧会がありましたよね。
オフィーリアがチラシに使われていましたよね。
今回は、展示されていませんよ。
260pxsir_john_everett_millais_003
この作家の作品は、他の展覧会でもよく展示されていますよね。

Rafaeruzennpa0001hannto
ウイリアム・ホルマン・ハント《キリストと二人のマリア》
府中美術館の「ターナーから印象派へ展」に展示されていたハントの水彩画はすばらしかったですよね。


Rafaeruzennpa0001tape
タペストリー《東方三博士の巡礼》モリス商会
デザイン;エドワード・コリー・バーン=ジョーンズ
花・地面のデザイン;ジョン・ヘンリー・ダール

Rafaeruzennpa0002sutenndo
ステンドグラス《シンバルとリュートの奏者》モリス商会
デザイン;ウィリアム・モリス

Rafaeruzennpa0002sara
ラスター彩皿;白鳥
デザイン;ウィリアム・ド・モーガン


Rafaeruzennpa
目黒美術館で7月14日まで開催。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.06

ジパング展~31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン。~

Jipang
日本橋高島屋8階 ホールで
6月20日(月)まで


デパートの展覧会って、この類の企画でも、結構ご高齢の方が観に来ていますよね。
私が行った日は、むしろ若い方が少かったです。

現代日本のアートシーンを牽引している旬?の作家の展覧会です。
人気アーティストの作品がずらりと並んでいます。
とても楽しい展覧会ですね。
まあ、素人目ですが、かなりの数の作家の作品が、ある方向に向いていて、似てきたなあ―なんて思う方もいるのではと....。
若い作家?(といわれてきた作家?)のある種ノスタルジーなのかもしれませんね、根っ子にあるものは....その感覚ががなんかステレオタイプに感じてしまうのかもしれません。
ある空気を感じました。
でもこれも楽しいですよ。
近くに行ったら、覗いてみるのも良いかと。

Jipang0001
三瀬夏之介《だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる》2010年

Jipang0001kounoike
鴻池朋子《mimio-Odyssey》ビデオ
この作品過去3回ぐらい観た。

Jipang0001matida
町田久美《とまり木》2007年

Jipang0001yamamoto
山本太郎《四季紅白慢幕図屏風》2009年

Jipang0001ueda
上田順平《キンタウルス》2008年陶磁器



参加アーティストは以下の通りです。
会田誠、青山悟、池田学、石原七生、上田順平、O JUN、岡本瑛里、風間サチコ、樫木知子、熊澤未来子、 鴻池朋子、近藤聡乃、指江昌克、染谷聡、棚田康司、束芋、天明屋尚、南条嘉毅、藤田桃子、町田久美、三瀬夏之介、宮永愛子、森淳一、山口藍、山口晃、山﨑史生、山本太郎、山本竜基、吉田朗、龍門藍、渡邊佳織


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.05

カズオ・イシグロ著 わたしを離さないで

まだ読んでいない方の為、ストーリーの詳細は記せませんので.....

私の名前はキャシー・H。いま三十一歳で、介護人を十一年以上やってます。
この小説の冒頭部分です。
寄宿施設ヘールシャムで生まれ育った、親友トミー、ルースの介護人も努めたキャシーは、あと八か月、今年の終わりまでは勤めてくれと言われている。

物語は、遡って生まれ育ったヘールシャムでの生活が、親友キャシー、トミー、ルースを中心に丹念な筆致で回想されていきます。
保護官といわれる教師、図画工作に熱心な教育、定期的に訪れる謎めいたマダム、展示会の存在?そして作品がマダムに選ばれる喜び。淡々と描かれていくヘールシャムの生活に謎めいた挿話が埋め込まれていきます。

そんな中、ルーシー先生は、決意を込めて言います。
「あなた方は、教わっているようで実は教わっていません。それが問題です。形ばかり教わっていても、誰一人、本当に理解しているとは思えません。そういう現状をよしとしておられる方も一部いるようですが、わたしはいやです。あなた方には見苦しい人生を送ってほしくありません。そのためにも、正しく知っておいてほしい。
ーー中略ーー
あなた方は一つの目的のためにこの世に生み出されていて、将来は決定済みです。ですから、無益な空想はもうやめなかればなりません。間もなくヘールシャムを出ていき、遠からず、最初の提供を準備する日が来るでしょう。それを覚えておいてください。みっともない人生にしないため、自分が何者で、先に何が待っているかを知っておいてください」
そして、ルーシー先生はへルーシャムを去っていきます。

やがて、十八歳になると仲間たちはヘールシャムを出ていくことになります。
この小説の面白さが加速していきます。
どんどん先が読みたくなってきます。
いよいよ提供者としての彼らの生活が始まります、そしてなんとも冷徹な結末が....。


カズオ・イシグロは言います。
この小説の設定はメタファーとして選んだものだと...全ての人間の根幹にに当てはまる、人間の根幹を描く物語であると。

この小説は映画化されています(3月一般公開)
キーラ・ナイトレイがルース役で出演しています。
プライドと偏見のキーラ・ナイトレイがお気に入りなんですけど、どんなルースになっているか?チョット楽しみです。
予告編は見ましたけど本編、絶対見ないと...ですよね。
何れ、DVDで....忘れないように。

Isigurowatasiwo
わたしを離さないで
著者 カズオ・イシグロ
訳者 土屋正雄
ハヤカワepi文庫(早川書房)
2008年8月25日発行
2011年4月10日13刷  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.02

五十嵐淳展 状態の構築

久しぶりで、”ギャラリー・間”に行ってきました。
ギャラリー・間は、TOTOの文化活動として運営されている建築・デザインの専門ギャラリーです 。
実は、東京ミッドタウン、六本木ヒルズ又は国立新美術館に行ったときに、ついでとは言いませんが寄ってみる事にしています。建築デザイン、憧れますよね。
ギャラリー・間の過去の展覧会も拙blogで何度か紹介しました。

以下に、チラシ解説の一部を引用します

あたり前だが、建築物は土地に定着している。そして、その場の全ての「状態」を等価に扱いながら設計していく。僕も、この基本的な方法により、10年間、建築を作り続けてきた。それは「定点」を探す作業であったといえる。北海道であるが故に、否応なしに応答し、または応答せざるをえなかった「状態」により生まれた「定点」や、一般的な方法を使いつつ、僕なりの手段を思考する中で生まれた「定点」など、必然性における「状態の構築」を繰り返してきた。そして今でも、経験や反復、時には変化する思考を続けている。

Kannigarasi0002hokai
風の輪(北海道北見市、2003年)

Kannigarasi0002benti
Tea House北海道常呂群、2000年)

以上の画像はチラシからです。

Dsc00329
ギャラリー入り口からスナップ。


五十嵐淳氏設計の簡素な幾何学的フォルムは、見た瞬間違和感なく(突っかかりがなく)素直に共感を呼びます。
この展覧会、1/10スケールの木組み模型18点が所狭しと2会場に分けて展示されています。
私が行った日は、来ている方は若い方ばかりでした。
建築家の創造力(想像力)は、見ていて本当にワクワクしますよね。

Kannigarasi0001tira

7月9日まで開催されています。
日・月・祝日は定休日ですからご注意を。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.06.01

フレンチ・ウィンドウ展

この展覧会は、フランスの現代美術コレクターの団体「ADIAF」が主催する「マルセル・デュシャン賞」の10周年を記念して開催されています。デュシャンの代表作「フレッシュ・ウィドウ」にちなみ、「フレンチ・ウィンドウ展」と名付けたそうです。
「デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」ということです。
Frenchwinmado
マルセル・デュシャン
《フレッシュ・ウィンドウ》
1920/1964

チラシの解説の一部を以下に引用します。

日常生活や時間、都市の心象風景を独創的に表現した“フランス現代アートの今”を体感していただくとともに、収集された作品がどのような形でコレクターの日常と融合しているのかをご覧いただけます。アートと生活のあり方について思いをめぐらせるとともに、コレクターがアートシーンで果たす役割や、その可能性について、幅広く考えるきっかけにしていただければ幸いです。

このような趣旨から、展覧会の最後には、作品を飾ったコレクターのアパルトマンが再現されています。

展覧会の構成は次の通り。
「デュシャンの窓」
「窓からの眺め」
「時空の窓」
「こころの窓」

Frenchwin
サーダン・アフィフ
《どくろ》
2008年
球体表面に天井の模様が映るとそれがドクロ....


Frenchwinmini
ブリュノ・ペナド
《無題、カリフォルニアのシステムゲームオーバー》
2007年
ミニマムアートを文字通りチョット捻って?このセンスいいですね。

Frenchwinmisyu
ブリュノ・ペナド
《無題、大きな一つの世界》
2000年
アフロヘヤ―に突き上げたこぶし、何かを連想させてくれます。


この美術館は、場所柄、老若男女、国の内外を問わず、いろいろな方々が見に来ておられますよね。
都内観光のついでの方も....まあ、この美術館のコンセプトからして、若い方が多いには違いありませんが。


アートがその時の社会との関係性を作者が意識するしないにかかわらず大きく孕んで作られている事は自明ですが、この種の展覧会には、直接的?に表現されている作品も多数あります。従って、日本人の私には、直感的に受け入れられない事が多々あります、そういう意味では、理解する上で解説が必要です、この美術館、ほぼ毎回、音声解説が無料で借りられるのは助かります。

さて、この展覧会を見て、日本の今現在のアートシーンと比較してどうだろう.....そんな感じを持ちながら....新しい発見というよりも、センスを楽しむ展覧会かもしれませんよ。

Domieguranbiru0002
森美術館で8月28日まで開催。
画像は、チラシからの引用です。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年5月 | トップページ | 2011年7月 »