角田光代著 小説 八日目の蝉
予断なくこの小説を読みたい方は、以下の要約は読まないでくださいね。
ドアノブをつかむ。氷を握ったように冷たい。その冷たさが、もう後戻りできないと告げているみたいに思えた。
平日の午前八時十分ころから二十分ほど、この部屋のドアは鍵がかけられていないことを稀和子は知っていた。なかに赤ん坊を残したまま、誰もいなくなることを知っていた。ついさっき、出かける妻と夫を稀和子は自動販売機の陰から見送った。冷たいドアノブを、稀和子は迷うことなくまわした。0章、冒頭部分です。
この小説は0章、1章、2章で構成されています。赤ん坊を連れた稀和子の逃亡生活が始まります。
先ずは、学生時代の親友の家で、時に、立ち退きを迫られる偏屈な老婦人の家に身を隠し、そして、社会から隔絶した集団エンジェルホームに紛れ込んで......エンジェルホームで知り合った久美の実家で......
その都度、発覚を恐れて、その場を逃れ逃走を続けます。
そして、久美の実家のある、その島からの逃走を試みて、稀和子とようやく物心のついた薫は、辿りついた連絡船の乗り場で、引き離されることになります。時は移って、薫は19歳の学生、親元を離れ、アルバイト生活。
すると、そこにエンジェルホ-ムで面倒を見てくれた、お姉さん的存在だった千草が現れます。
千草は、自分が育ったエンジェルホームの取材をしている。
実は、薫は、妻子ある男と......そして妊娠する。
あの、稀和子と私は同じことを......一時期、エンジェルホームで育った、薫と千草は、薫と稀和子が最後に過ごしたあの島小豆島を目指す。
そして、あの連絡船乗り場で.......
最近?の作家の作品を読んでみようと、本屋で大量に平積みされている、この本を手にとってみました。
物語りの導入部の表現も見事、どんどん先の筋書きが心配になります。結末の表現が難しいだろうな~なんて思いながら読み進めました。良い小説です。
映画化もされるようです、良い映画になることを願います。
蝉は、数年(7年という説もある)の幼虫の時期を経て殻を破り成虫になり、その7日後に生命を終えます。
この小説のタイトルの由来です。
「前に、死ねなかった蝉の話をしたの、あんた覚えてる?七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉のほうがかなしいって、あんた言ったよね。私もずっとそう思ってたけど」千草は静かに言葉をつなぐ。「それは違うかもね。八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものをみられるんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ」
著者のメッセージですね。
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