電車の中で読んだ本の一節
その日は冷たいみぞれ(あめゆき)が降っていた。八畳の病室には青い蚊帳がつられ、火鉢には炭火が真っ赤に燃えていた。その最後をみとった父が、何か言うことはないかと聞く。とし子は「また人に生まれてくるときは、こんなに自分のことばかりで苦しまないように生まれてくる」といった。
その晩、とし子の兄賢治は「永訣の朝」を書いた。
けふのうちに
とうくへいってしまうわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
うすあかるくいっそう陰鬱な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
青いじゅん菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまえがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぽうのやうに
このくらいみぞれのなかに飛び出した
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
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宮沢賢治26歳、妹とし子24歳、大正11年11月のこと。
山折哲雄著 悲しみの精神史
から引用、要約させていただきました。
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