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2007.01.20

琴はしずかに 八木重吉の妻として

琴はしずかに 八木重吉の妻として

吉野富子著
1976年初版 彌生書房刊


八木重吉と18歳で結婚し、23歳で死別、残された子ども、桃子と陽二も、中学生(旧制)のときに相次いで亡くします。その後、富子は重吉、桃子、陽二の思い出と詩を伴として生きていきます。

本書中にある、八木重吉の、もっとも長い詩を記します。

明日

まず明日も目を醒まそう

誰がさきにめをさましても

ほかの者を皆起こすのだ

眼がハッキリとさめて気持ちもたしかになったら

いままで寝ていたところはとり乱しているから

この三畳の間へ親子四人あつまろう

富子お前は陽二を抱いてそこにおすわり

桃ちゃんは私のお膝へおててをついて

いつものようにお顔をつっぷすがいいよ

そこで私は聖書をとり

馬太伝六章の主の祈りをよみますから

みんないっしょに祈る心になろう

この朝のつとめを

どうぞしてたのしい真剣なつとめとしてつづかせたい

さお前は朝飯のしたくにおとりかかり

私は二人を子守しているから

お互いに心を打ち込んでその務めを果たそう

もう出来たのか

では皆でご飯にしよう

桃子はアブちゃんをかけてそこへおすわり

陽ちゃんは母ちゃんのそばはすわって

皆おいちいおいちいいって食べようね

七時半ごろになると

わたしは勤めに出かけなくてはならない

まだ本当にしっくり心にあった仕事とは思わないが

とにかく自分に出来るしごとであり

妻と子を養う糧を得られる

大勢の子供を相手の仕事で

あながち悪い仕事とも思われない

心を尽くせば

少しはよい事もできるかもしれぬ

そして何より意義のあると思うことは

生徒たちはつまり「隣人」である

それゆえ私の心は

生徒たちにむかっているとき

大きな修練を経ているのだ

何よりも一人一人の少年を

基督其の人の化身とおもわねばならぬ
(自分の妻子もそうである)

そのきもちで勤めの時間をすごすのだ

その心がけが何より根本だ

絶えずあらゆるものに額ずいていよう

このおもいから

存外いやなおもいもはれていくだろう

進んで自分も更に更に美しくなり得る望みが湧こう

そうして日日をくらしていったら

つまらないと思ったこの職も

他の仕事と比べて劣っているとはおもわれなくもなるであろう

こんな望みで進むのだ

休みの時間には

基督のことをおもいすごそう

夕方になれば

妻や子の顔を心にうかべ乍ら家路をたどる

美しい慰めの時だ

よくはれた日なら

身体いっぱいに夕日をあび

小学生の昔にかえったつもりで口笛でも吹きながら

雨ふりならば

傘におちる雨の音にききいりながら

砂利の白いつぶをたのしんであるいてこよう

もし暴風の日があるなら

一心に基督を念じてつきぬけて来よう

そしていつの日もいつの日も

門口には六つもの瞳がよろこびむかえてくれる

私はその日勤め先ての出来事をかたり

妻は留守中のできごとをかたる

なんでもない事でもお互いにたのしい

そして お互いに今日一日

神についての考えに誤りはなかったかをかんがえ合わせてみよう

又それについて話し合ってみよう

しばらくは

親子四人他愛のない休息の時である

私も何もかもほったらかして子供の相手だ

やがて揃って夕食をたべる

ささやかな生活でも

子供を二人かかえてお互い夕暮れ時はかなり忙しい

さあねるまでは又子供等の一騒ぎだ

そのうち奴さんたちは

倒れた兵隊さんの様に一人二人と寝入ってしまう

私等は二人で

子供の枕元で静かに祈りをしよう

桃子たちも眼をあいていたらいっしょにするのだ

ほんとうに

自分の心に

いつも大きな花を持っていたいものだ

その花は他人を憎まなければ蝕まれはしない

他人を憎めば自ずとそこだけ腐れてゆく

この花を抱いて皆ねむりにつこう


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コメント

elmaさん、コメントを頂きありがとうございます。

懐かしさを感じさせる詩だと思いました。
富子は「人生の問い」に誠実に答えて生きたのだと思いました。

人生を勘違いしてはいけませんね。
自戒します。

投稿: elmaさんへ | 2007.01.21 08:40

こんばんは、makoさん!
いい詩ですね。
穏やかな家族の風景がドラマのように描かれていますね。
このような生活と信条をもって生きていきたいものです。
でも、夭折の詩人「八木重吉」・・・。
夫と子供の幻影を抱いて生きたというのは、切なくいとおしいです。
好きですよ、こんな「詩」
ありがとうございます、やさしい気持ちになれました。

投稿: elma | 2007.01.20 22:57

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